今月9日に89歳で死去した元参院議長の扇千景(おおぎ・ちかげ)さん(本名・林寛子=はやし・ひろこ)の葬儀・告別式が27日、東京都港区の増上寺光摂殿で営まれ、小泉純一郎元首相(81)が弔辞を読んだ。

小泉氏は2001年4月に発足した第1次小泉内閣で、扇さんを国交相で引き続き起用した。弔辞の内容は以下の通り。

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扇千景先生のご葬儀に当たり、衷心より哀惜の念をささげます。

私が自由民主党総裁に就任した際、保守党の党首であった扇先生はカウンターパートとしてともに政権運営に汗をかき、私が政治生命をかけた郵政民営化法案が成立した時、扇先生は参院議長をされていた。どのような場面でも笑顔をお見せになる扇先生を尊敬し、不思議な縁を感じていました。深い悲しみに包まれたまま、先生が亡くなられたことを受け入れることができないまま、祭壇の前に立っております。

神戸市でお生まれになった扇先生は、宝塚歌劇団を経て、映画やドラマ、司会者としてあらゆる世界で活躍された。昭和52年、参院選全国区で初当選され、以来、5回の当選を重ねられ、26年5カ月の長きにわたり参院議員を務められた。その間の功績は誰もが知るところであります。

扇先生は平成19年5月の政界引退会見で、「自分は『初』の文字がつく多くの経験をした」と語っておられました。

その1つが、第2次森内閣での、女性として初めての建設大臣、国土庁長官への就任であります。当時は永田町と霞ケ関が激しく揺れ動いていた収賄事件の後でしたから、すぐに公共工事にかかわる丸投げを撲滅するため、公共工事入札契約適正化法の制定に取り組まれました。

第1次小泉内閣でも、積極的に改革に取り組んでおられる姿を見て、国土交通大臣をお願いしました。

4省庁が統合された新しい省。職員の意識に特に留意を払っておられました。その中でも、まじめに事業執行に当たる職員の意識の低下、公共事業を悪いもののようにとらえる風潮を感じた扇大臣は「公共事業は国の礎となる大切な事業なのだから、自信をもってやり抜きなさい」という言葉とともに、公共工事入札契約適正化法を浸透させることが公共事業に対する信頼性を回復させるものであるという思いを、職員1人1人に繰り返しおっしゃっていました。

また、公共工事の入札透明化のために、電子入札を導入されたのも扇先生です。行政のデジタル化のみならず、透明化に貢献することを、確信しておられました。

さらに参院議員に初当選した当時、女性として初めて内閣委員会に所属されたと扇先生にお聞きしておりましたが、それから27年後、さまざまな実績を積み重ねられ、平成16年7月、女性として初めて参院議長に就任されました。

議長としては、参院改革に熱心に取り組まれ、中でも決算審査の充実のための会計検査院法の改正など、政府開発援助等に関する特別委員会設置など、現在の決算を重視する参院の礎を築かれました。

また外交にも力を注がれ、平成17年、ニューヨークの国連本部で行われた第2回世界議長会議では参院議長として初めて演説をされました。核軍縮、日本のODA支援、気候変動、国連改革といった国際的な喫緊の課題を、国際社会における日本の取り組みを堂々とおっしゃられ、万雷の拍手を浴びておられました。

また平成19年、議長として臨んだ参院創設60年の記念行事で、全国の中高校生から「私たちが夢見るこれからの日本」をテーマに作文を募集し、優秀作の表彰祝賀会が行われた際にはとても優しいお顔をされていたのが印象的でした。次代の育成にも真摯(しんし)に取り組んでおられました。

まさに、立法府、行政府の双方で改革を進めていた扇先生こそ、信念と改革の気持ちを背に、未来に向かって走り抜いた人だったと思います。

扇先生の思いが今、形になりつつあるものがあります。国土交通大臣の時に、日本の景観を改善したいという思いで指示を出された日本橋プロジェクト。日本の道路の起点である日本橋に、どうして天井のように高速道路がかぶさっているのと、いつも嘆いておられました。2040年度には、高速道路の地下化工事により、日本橋上空には青空が広がり、日本橋を飾っている翼を持った記念像をのぞくことができるようになります。扇先生には、空から日本の国民を見守っていただきたいと思います。

思いが形になるもう1つのものは、見えない社会の天井を打ち破ってきた扇先生を越えようと、多くの女性が自らの思いを実現するため、自らの歩みを進めておられることです。

扇先生は著書の中で「やっぱり女はだめだ、2度と女にはこのポストは与えないとだけは言われないように、いや、むしろ女でよかったと言われ、後輩に道が開けるよう務めなければというプレッシャーがかなりあったことも事実です」と書かれています。

女性が活躍する社会を目指し、その先頭に立って切り開いてきた道には、続々と後輩たちが続いております。

政治家として全身全霊で走り抜けてこられた先生に。あらためて心から敬意と感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

扇先生。お別れをしなくてはなりません。先生のりんとしたたたずまい、けして忘れることはありません。どうかこれからは、愛するご家族のもとで安らかにおやすみください。あらためて扇千景先生のご冥福をお祈りし、ご遺族にお悔やみを申し上げます。元内閣総理大臣 小泉純一郎

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