将棋の藤井聡太竜王(王位・叡王・棋王・王将・棋聖=20)が渡辺明名人(39)に挑戦する第81期名人戦7番勝負第4局が21、22の両日、福岡県飯塚市「麻生大浦荘」で行われ、先手の藤井が69手で渡辺を破った。

シリーズ成績を3勝1敗とし、最年少名人&7冠にあと1勝とした。4連覇を狙う渡辺はかど番に追い込まれた。第5局は31日から長野県高山村「緑霞山宿 藤井荘」で行われる。

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何度も、考えた。藤井の2勝1敗で迎えた第4局。渡辺が4手目に角道を止める。開幕から4局連続して角道を止める力戦になり、渡辺は戦型を雁木(がんぎ)に進めた。経験の少ない形への誘いに応じた藤井は早々と銀を繰り出し、急戦を狙う構えを見せた。

「あまり見通しが立たなかった。本譜も攻められる展開になりやすいので、どうなっているか難しいと思ってやっていました」。持ち時間は2日制のタイトル戦では最長の9時間。未知の領域に入っても、読みを深め、的確に対応した。

2日目は渡辺の攻めを受け止める展開になり、長考を繰り返した。「こちらが後手の攻めを受け止められるかどうかと思っていた」。考え抜いた一手一手で徐々にリードを広げ、人工知能(AI)の評価値が示す折れ線グラフが終盤に近づくにつれて上昇する「藤井曲線」を描き、相手を早い投了に追い込んだ。

これで谷川浩司17世名人(61)が持つ21歳2カ月の名人獲得最年少記録の40年ぶりの更新と、羽生善治九段(52)以来となる史上2人目の7冠にあと1勝とした。偉業へ“ダブル王手”だ。

20年7月の棋聖戦で初タイトル奪取してからタイトル戦には15度登場し、連敗はなく、失冠もない。師匠の杉本昌隆八段(54)は「常に自分の読みを信じて、それをベースにここまで進んできたのは間違いない」。未体験ゾーンでも、考えて、考えて、強くなってきた。

「奨励会」に入会したばかりの小学4年のとき、藤井少年は地元・愛知県瀬戸市のコミュニティーFMラジオ局「ラジオサンキュー」に出演し、将来の夢を聞かれ、こう答えた。

「名人を超えたいです」

歴史と伝統のある名人位にあこがれ続けた20歳は「名人超え」に「そろそろ時効にしてほしいです(笑い)」と子ども時代の“豪語”を振り返る。史上最年少14歳2カ月でプロデビューしてから約7年。第5局へ「スコアは気にせず臨みたい」。「名人」までは、あと1勝だ。【松浦隆司】