歴史的な一戦の裏側に迫る「G1ヒストリア」。第11回は芦毛の怪物ゴールドシップが3歳で制した12年の有馬記念を取り上げる。スタートで出遅れるも、最後方から大外一気のロングスパートで精鋭古馬らを一蹴。皐月賞でささやかれた雑音をもかき消した衝撃的なレースを、担当した今浪隆利厩務員(64)が振り返った。

12年、オーシャンブルー(右)を差し切り、有馬記念を制したゴールドシップ。内田博幸騎手はガッツポーズ
12年、オーシャンブルー(右)を差し切り、有馬記念を制したゴールドシップ。内田博幸騎手はガッツポーズ

もう“ゴルシワープ”とは言わせない。12年暮れの有馬記念。3歳で挑んだゴールドシップは、周囲に有無を言わせぬ圧倒的な走りで冬のグランプリを制した。担当した今浪厩務員が当時を振り返る。

菊花賞でG1・2勝目を挙げ、ファン投票6位で選出された。「あの時はめちゃくちゃ調子が良かった。だいぶ力を付けてきたなというのがあったし、うまくいけばまたチャンスがあるんじゃないかと思っていた」。堂々の1番人気に支持され、古馬との初対戦を迎えた。スタートで1馬身ほど出遅れ、道中は最後方。それでも2周目3角から内田騎手が大外に進路を取ってロングスパートを仕掛けると、勢いそのままに前にいた15頭をのみ込んだ。

今浪厩務員はスタート後にバスで移動中だったため、レース内容はほとんど把握できていなかった。「ゴールドシップの名前がバンバン(実況で)呼ばれてたから、何とかいけたんかなと」。後からゆっくりレース映像を見て驚いた。「うわ~こんな強い勝ち方してたんやなってね」。心のモヤモヤも、ゴルシが晴らしてくれた。

「あの時の有馬は思い入れが大きい」。その理由は同年の皐月賞にあった。同じ中山でG1初制覇も、内をすくっての勝利だった。

「大外をブン回して勝ったら格好良く見えるけど、皐月賞は内をすくってワープとかも言われて。『力で勝ったんじゃない』と言われたこともあった。だから、有馬でああいう勝ち方をしてくれて。誰も文句言えないよな。あんな強いメンバーであれで勝つんだから、改めてスゲェ馬やと。また一段と感心したね」。

 
 

ただレース後もゴルシはゴルシだった。ウイニングランにも行こうとせず、検量室前の枠場にも入らない。結局、馬場内で鞍を外して優勝レイも嫌がってつけなかった。今浪厩務員は愛情たっぷりに「まあ~偏固やった」と笑う。そこに、芦毛の怪物が今も愛される理由がある。【奥田隼人】

◆ゴールドシップ 2009年3月6日、北海道日高町・出口牧場生まれ。父ステイゴールド、母ポイントフラッグ(母の父メジロマックイーン)。芦毛、牡。馬主は小林英一ホールディングス。栗東・須貝厩舎から11年7月デビュー。12年皐月賞、菊花賞、有馬記念、13、14年宝塚記念、15年天皇賞・春を制しG1・6勝。通算28戦13勝(うち海外1戦0勝)。総収得賞金は13億9776万7000円。