アスクビクターモアの田辺騎手は、ライバルの体力を削っていった。これが勝因だ。大逃げしたセイウンハーデスの前半1000メートルは58秒7。3000メートルの長距離戦としてはかなり速い。そこから4、5馬身ほど離れた2番手を追走。無理に控えず馬の気持ちに乗りながら、自身も59秒台で通過した。

皐月賞、ダービーは最後に切れ負け。スピードの持続力はあるが瞬発力勝負では分が悪い。今回は2番人気で目標にされる立場。それを逆手に取るかのような積極策は、詰めの甘さを補うためだ。追いかけてくれたらしめたもの。アスクビクターモアが粘り強いのは他のジョッキーも分かっている。簡単に行かせたら届かない。この騎手心理をうまく突いた。

2周目3、4コーナーでも攻め続け、追い込み勢に脚を使わせる。まさに田辺騎手の思うツボ。さすがにラスト200メートルは12秒9と坂を上がって苦しくなったが、後ろもジリジリという感じの伸び。2着ボルドグフーシュ、3着ジャスティンパレスの切れる脚も封印した。

速い流れを考えると前半の進め方、勝負どころからのロングスパートは常識的にないかもしれないが、アスクビクターモアには合っていた。馬の特長を生かした心理戦。田辺騎手の頭脳プレーが鼻差の勝利を呼び込んだ。

菊花賞を制したアスクビクターモアと口取りに納まる田辺騎手(2022年10月23日撮影)
菊花賞を制したアスクビクターモアと口取りに納まる田辺騎手(2022年10月23日撮影)