ありがとう、ドリちゃん-。角居勝彦元調教師(58)が競馬を語る月イチ連載コラム「Thanks Horse」。今回は今月1日に蹄葉炎(ていようえん)で安楽死となったドリームシグナルへの思いをつづった。08年日刊スポーツ賞シンザン記念の勝ち馬で、20年からはタイニーズファームの最初の所属馬として、立ち上げから現在の活動をともにしてきた。

    ◇    ◇    ◇

「ドリちゃん」ことドリームシグナルが今月1日に亡くなりました。

もともと背中を痛めたことで乗馬として活躍できなくなり、ウチの牧場へやってきたのですが、先月の6日に転倒して起き上がれなくなりました。壁を支えにして立たせたり、馬房に滑車をつけて上からつったりしましたが、残念ながら蹄葉炎を患い、ツメがとれそうになるまで悪化してしまいました。もはや治す手だてがなく、そのままでは激痛を伴うことが避けられないため、獣医さんに診てもらい、安楽死をお願いすることになりました。

ウチにいる馬たちの中で、体力的には一番弱い立場でしたが、最年長としてお手本になる存在でした。新しい場所へ行く時に他の馬が怖がっていても、彼が先頭に立って行ってくれました。新入りの馬が来た時には、間に立って仲をとりもってくれたものです。最期までゴハンを食べ続け、生きようとする気力を見せてくれた強い馬でした。

サラブレッドは30年ほど生きられるとされていますが、天寿を全うできない馬がほとんどです。18歳で亡くなった彼の生涯が長かったのか、短かったのか、判断はしづらいです。「こういう最期でよかったのか」「もっとやれることがあったのではないか」と考えさせられました。

私たちは馬の余生に携わりますから、こうして死に立ち会う事例は今後も次々に出てくると思います。どういう最期を迎えるかを発信することには、賛成も反対もあるでしょう。ファンであれば、お気に入りの馬には長生きしてほしいものですが「そうでない馬は死んでもいい」というのは違うと思います。馬の死と向き合う上で、あらためて考えなければならないテーマを示された気がします。

ファンの方々からはお悔やみのメッセージだけでなく、お供えやお花も頂きました。1人1人にお返事ができなくて申し訳ありませんが、この場を借りて感謝を申し上げます。ありがとうございました。

◆ドリームシグナル 2005年6月4日、コスモヴューファーム(北海道新冠町)生産。父アグネスデジタル、母ダイイチアピール。せん、栗毛。現役時の馬主はセゾンレースホースで、栗東の西園正厩舎所属。通算成績は19戦2勝(重賞1勝)。引退後は金沢競馬場で誘導馬を務め、20年から角居氏の営むタイニーズファームへ。