単勝92・5倍、10番人気のジェミニキング(せん7、服部)が重賞初制覇を果たした。勝ち時計は4分21秒6。

「俺、小倉(冬の小倉開催)が終わったら、(所属する)美浦には戻らず、そのまま栗東に行きます。今のままじゃ、何も変わらない。やっぱりトップになりたいですから」。ジェミニキングの鞍上・小野寺祐太騎手(32)が昨年1月、そう打ち明けてきた。09年にデビュー。21年には障害競走(平地除く)で年間キャリアハイとなる6勝を挙げ、「デビュー以来最も充実していた年」と語っていた。年が明けての決意。もっと上を目指したい。ふつふつとわいてきた向上心がそれまで無欲だった男を動かした。

デビュー15年目のJRA重賞初制覇。昨年の中山大障害1~4着がそろった阪神スプリングJというレース、石神騎手、五十嵐騎手、森一騎手などの名手を相手に、ジェミニキング(で鮮やかなイン突きを決めた。トップになりたい。その強い気持ちが少しだけ実った。

「おじさんがオートレーサー(伊勢崎の清水卓選手)で最初はオートレーサーになりたかったんです」。ポーカーフェースでイケメン。一見、無口なタイプに見えるが、しゃべり出すと、止まらない。朝の調教が終わり、人けの少なくなった調教スタンドで立ち話のまま1時間たっていることもあった。真面目な競馬の話がほとんどだ。

美浦トレセンのある茨城県から妻子とともに栗東トレセンのある滋賀県へ。多くの有力ジャンパーを擁する五十嵐厩舎(2月で定年のため解散)や矢作厩舎、荒川厩舎など、環境を変えたことで、日頃の調教から新たな刺激を受けてきた。先月26日、五十嵐厩舎の最終日に騎乗した小倉の未勝利戦はティートラップで2着。「最後、勝ちたかったですね。自分のできることはやり切ったんですが…」と悔しがった。栗東所属になった後も、美浦の厩舎からは変わらず騎乗依頼があり、時間の許す限り、美浦にも駆けつけて調教にまたがっている。1頭、1頭と真摯(しんし)に向き合ってきたことを多くの関係者が評価していると思う。

阪神スプリングJは中山大障害覇者ニシノデイジー、ゼノヴァース、ミッキーメテオなど、強力メンバーが相手。今週、小野寺騎手に手応えを確認するメールを送ると、「感じは悪くないです。あとはやり切るだけです」というメッセージと「必殺仕事人」(藤田まこと)のスタンプが届いていた(記者は◎ミッキーメテオ4着の予想を反省)。

順調にいけば、来月の中山グランドジャンプに挑むことになる。この日は62キロを背負っていたニシノデイジー、前哨戦仕様だったライバルたちを相手にジェミニキングの小野寺騎手がどんな手綱さばきを見せるのか、楽しみにしたい。【木南友輔】