今春に定年、引退する調教師が語る「明日への伝言」の第2回は、美浦の宗像義忠師(70)が自身と競馬、師匠の高橋英夫さん、名馬バランスオブゲームと田中勝春元騎手(53、現調教師)、最初で最後の弟子になる丸田恭介騎手(38)との出会いを振り返った。【取材・構成=井上力心】
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子どもの頃、父親に初めて福島競馬場に連れて行ってもらってそこで馬に興味を持ちました。青森にある北里大学の獣医学部に進学し、馬術部に入部して乗馬の基礎を磨きました。もともとは獣医師になるものだと思っていましたが、大学時代のコーチが牧場関係の人だったこともあり、関係者の方を伝って高橋英夫先生(騎手時代に62年フエアーウインでダービー制覇。調教師では83年オークスを勝った名牝ダイナカールを管理)を紹介してもらいました。周りの方が動いてくれて、流れに身を任せて競馬の世界に来たって感じですね(笑い)。
師匠は従来の考えにとらわれない方でまだ坂路がない時にもインターバルトレーニングをやったり、周りがやらないことを先駆けてやっていました。精神的な考えだったり、影響を受けたところは多々あります。
助手をやっているうちに自分でもやってみたいと思って調教師を目指しました。みんな印象深い馬たちばかりですが、特に最初に重賞を勝ってくれたバランスオブゲームは思い出に残っています。開業間もない頃に弾みを付けてくれて、厩舎を支えてくれた馬です。スピードがあり操縦性も良かったし体力もありました。何より体が丈夫でしたね。中山にはめっぽう強かったので中山で(2000前後の)G1があったら、勝てていたと思いますよ。7歳までコンスタントに使って毎年のように重賞を勝ってくれて、なかなかこのような馬には巡り合えないです。
バランスオブゲームをはじめ、(田中)勝春君にはよくレースに乗ってもらいましたし、信頼の置けるジョッキーでした。大体の馬は彼が開業する厩舎に引き継いでもらう予定になっています。つながりの深い人にタイミング良く引き継げるのは良かったですね。騎手時代の経験が豊富なので、いろいろ吸収しながらいい厩舎を作っていってほしいですね。
弟子の丸田で高松宮記念(ナランフレグ)を勝てたのもうれしかった。喜びもひとしおでした。今はフリーだけどずっと調教も手伝ってくれていて。考えはけっこう論理的で、1頭1頭の個性をどうやったら伸ばせるか。すごく考えて調教をやってくれています。学校時代から人当たりが柔らかく、人柄のいい子でした。最初で最後の弟子ですし、縁があったんだと思います。
(80年から助手として働いた)高橋英夫厩舎も今と同じ区画にあって、40年以上もこの場所にいることになります。離れるのは不思議な感覚ですよね。やり切ったという感じはなく、もう少しできていたなという思いの方が強いです。引退した皆さんが思うように今考えるとあっという間でしたね。しばらくはのんびりしたいなと思います。
地元の福島には幼い頃から親しみがありますし、熱いファンが多いですよね。土曜の1Rから待ちに待っていたという雰囲気で、競馬が根付いていますよね。夏は福島で馬券でも買ってみたいですね。今までやったことがないので。これからも競馬を応援していきたいと思います。
◆丸田騎手(07年デビュー) もの静かで口数は多くないけど、ずっと応援してもらいました。お世話になってきて、いつか一緒に重賞を勝ちたいという思いがあって、それがG1(高松宮記念)で僕は大泣きでしたけど、(同じくG1初制覇の)先生は全然泣きそうな感じはなくて…。ナランフレグはいつクビになってもおかしくないのに、変わらず乗せていただけたのはオーナーのご理解と、先生の愛情だと思っています。
◆宗像厩舎の重賞ウイナー シンコウカリド、バランスオブゲーム、ウインブレイズ、ウイングレット、アブソリュート、フェイムゲーム、ウインキートス、ナランフレグ、ラーグルフ。
◆宗像義忠(むなかた・よしただ)1954年(昭29)7月26日、福島県生まれ。92年に調教師免許を取得し、翌93年に開業。主な管理馬には重賞7勝のバランスオブゲーム、22年高松宮記念を制したナランフレグ、長距離戦線で活躍し、重賞6勝のフェイムゲーム、マイル重賞2勝のアブソリュートなどがいる。26日時点でJRA通算671勝。趣味はゴルフなど。2月9日の東京新聞杯に出走予定のラーグルフが重賞最終出走となる予定。

