名牝ゼニヤッタや3冠馬ジャスティファイの主戦を務めた米国競馬のレジェンド、マイク・スミス騎手(59)が26日、米国の自殺防止月間の最終週に行われたパネルディスカッション(意見や情報を交換する会議)にリモートで出席し、スピーチを行った。「サラブレッドデイリーニュース」電子版が伝えている。

イースタンケンタッキー大学が主催したパネルディスカッションにスミス騎手はカリフォルニア州の自宅から参加。競馬業界がどのように自殺防止とメンタルヘルスについての取り組みを強化しているのか、また、騎手という職業がどれほど精神的ストレスと肉体的ストレスが複雑に絡み合い、激しい競争が行われる職業であるのか、などをスピーチしている。

「競走馬には多額の資金が投入され、プレッシャーも大きい。賞金は数百万ドルに達することもあります。もし、メンタルヘルスの問題や鬱(うつ)の兆候が見られれば、仕事を失います。誰もがメンタルの問題を経験するものですが、スポーツの世界、競走馬に騎乗する状況では1秒が命取りとなり、勝敗を決することになるからです」。

「私たちは自営業者で、騎乗できなければ生活できません。(メンタルの問題で助けを求める騎手は)仕事を失います。(オーナーや調教師は)すぐに次の騎手を探します。(自身の経験から)このスポーツ(競馬の騎手)は勝率が20%でも殿堂入りできるんです。つまり、80%は負けるレースです。あるときは世界の頂点にいたのに、次の瞬間には最下位に沈みます。すべては最後に騎乗したレースの結果次第です」。

「このスポーツは常に一定の体重を維持しなければいけません。騎手の多くは1日に4ポンド、5ポンド、あるいは6ポンド減量します。身体に負担がかかります。肉体的にも精神的にも。そして。最高レベルのパフォーマンスを維持しなければいけません」

「『成功している人はメンタルヘルスの問題やうつ病を抱えていない』という偏見もあります。トップレベルで非常に成功している人たちでさえ、他の人と同様か、それ以上にひどい問題を抱えていることがあります」。

スミス騎手は自身がカウンセリングやメンタルヘルスの回復に向けた取り組みをしているのかを問われると、「何もしていません」と回答。「精神的な問題、精神崩壊、うつ病など、呼び方はどうでもいいですが、何らかの苦しみを経験したことのない人間なんていないと思います。誰もが経験しています。私は信仰深く、スピリチュアルなものを信じています。素晴らしい家族に恵まれ、素晴らしい友人にも恵まれています。人々に寄り添っています。でも、ときどき、思います。ほら…」と語った後、しばらくの間、沈黙の時間をもうけ、そして、「あと5分だけ耐えるだけで、突然すべてが済んでしまうこともあります。あと5分でも、30分でも、1時間でも、1日か2日でも、1週間でも。物事は必ず良い方向に変わる。私はそう信じてます」と、自身の思いを伝えている。

スミス騎手はまた、過去2年間で2人の同僚の騎手を失ったことや競馬業界がメンタルヘルスに力を入れてきたこと、あらゆるスポーツでその取り組みが成果を上げてきていること、などを紹介。「今のようにジョッキールームで多くの人がメンタルヘルスについて話すような組織になったのは素晴らしいことです。昔はジョッキールームでメンタルヘルスについて話すなんて考えられませんでした。数年前なら私は『精神的な問題を抱えた人の隣で騎乗したくない』と言ったでしょう。一瞬の判断を迫られる、私の命がかかっているのですから。でも、誰もがそういう経験をします。そして、みんなで話し合えば、気持ちが楽になると思います。みんなで話し合う必要があります。もっとオープンに話しましょう」と訴えている。

記事の最後はスミス騎手の「調教師、ホットウォーカー(馬を引く仕事の人)、牧場で働く人たち、みんなに届けばいいと思います。私たちはみんなが苦労しています。このメッセージがすべての人に届くことを願っています」という言葉で締めくくられている。