弟神の横暴さに天岩戸にお隠れになったという天照大神と、平成を生きるイチ庶民では、格の違いも甚だしいのだが、私も高千穂の地で困った。迷った。どうしよう。高千穂から山あいを1時間ほど南に向かうと椎葉村(しいばそん)がある。日本三大秘境の1つ(他の2つは岐阜・白川郷、徳島・祖谷)とされ、しかも知られざる絶景もあるようだ。

ただ、インターネットで下調べすればするほど、怖じ気づく。絶景ポイントへの道は、並の険しさではない。レンタカーを無傷で返せる自信がない。最終的には「そう滅多に行ける場所じゃないし」と割り切って、椎葉村へ向かうことにした。高千穂から五ヶ瀬町を抜け、総延長2777メートルの国見トンネルへ。この出口が日本三大秘境だ。

椎葉村へとつながる国見トンネル
椎葉村へとつながる国見トンネル

どんな秘境につながっているか不安に襲われるトンネルを抜けると、意外にも英語で出迎えられた。全国各地でたまに見かける「日本で最も美しい村連合」の看板だ。そこからしばらく、眼下に美しい川を見下ろす渓谷の道を進む。道路は2車線。拍子抜けするほど走りやすい。後から知ったが、この道路が最も椎葉村にアクセスしやすいそうだ。

人口2700人弱。時折、民家を見かける
人口2700人弱。時折、民家を見かける

宮崎県椎葉村は広大な村面積の96%が森林だという。人口は2670人(17年4月)。たまに見かける民家に安心する。トンネルを抜けて10キロほど走ると交差点がある。地図から判断するに、このあたりが村の中心部と思っていたが、360度見回してもほとんど民家がなく、秘境っぷりを見せつけられる。実際は交差点を右折すると、村役場などがあるそうだ。私は橋から美しい川を撮影し、左折。意を決し、絶景の地へと向かう。

橋から眺める色鮮やかな川
橋から眺める色鮮やかな川

左折後、約3キロ。「石原トンネル」の入口手前を、右折する。そこから1キロほど走り、国道の上をまたぐ前に左折するのだが、左折ポイントを見逃して通り過ぎた。そこが正規ルートとは思えないほど、とんでもない勾配だったから。引き返し、アクセル全開で強烈な坂を登る。すぐに狭くなり、道幅は車1台分。すれ違いなど到底不可。専門用語で「離合困難」と呼ぶことを最近知った。撮影もほとんどできない。そんな暇があったら1メートルでも先に進んで、すれ違いのリスクをどんどん減らしたい。

椎葉村の絶景への道はとんでもない険しさ
椎葉村の絶景への道はとんでもない険しさ

ガードレールも満足になく、万が一落ちたら奈落…の場所があちこちに。数分に一度のすれ違いポイントで写真を撮るけれど、それ以外の場所では全く気が休まらない。対向車が2度来た。一度はこちらがバック、一度は相手がバック。基本的に勾配が強烈な上に狭いので、バックするにも細心の注意が必要だ。工事車両が1・5車線の半分をふさいだり、砂利道だったり。なんで、こんな道に入ってしまったんだろう…。悔やむこと、二度三度では済まず。道中に2つ、小さな集落があって本当に驚いた。

この分岐点は左折しなければならない…
この分岐点は左折しなければならない…

恐怖の運転登山は約25分。石原トンネルの時点で「5・8キロ、約20分」と書いてあったから、15~16分で着くだろうと思っていたのに。全国津々浦々を運転してきたけれど、こんなに険しく怖い道はなかった。ようやく噂の絶景を拝める「大いちょう展望台」の下に着き、車を停める。ドアを開け、自分が発したものなのか深呼吸なのか、ため息なのかよく分からない。極度に緊張を強いられた25分だった。【金子真仁】

展望台の駐車場は3台分のみ
展望台の駐車場は3台分のみ

「椎葉村の大いちょう展望台」へ行くには?

観光であるならば、車以外でのアクセスは困難。椎葉村まで熊本空港からも宮崎空港からも、快調であれば車で2時間半。3時間みれば十分です。運転しやすさは、北の高千穂側からがベスト。東側、南側のルートはかなり狭い場所があるようです。大いちょう展望台へのルートは上記本文通り。運転に慣れていない人は絶対に進入してはいけません。また極力、小型車で。事故を起こしてから、立ち往生してからでは遅いです。