日本ハム中島卓也内野手(26)の人生初本塁打に誰よりも目を細めた存在がいる。中島が08年ドラフト5位で指名された当時の担当スカウトだった岩井隆之ファーム内野守備コーチ(64)だ。7月30日ソフトバンク戦(ヤフオクドーム)。中島がプロ9年目、2287打席目で初アーチを放つ姿をテレビで見ていた。福岡工時代含め、野球人生で柵越えはゼロだった中島本人も「(本塁打は)ああいう感覚なんですね」と驚いた1発に、岩井コーチは「非力だったからね。でも良かったよ」と喜んだ。

 約束が実現した。2月、沖縄・国頭で“師弟”で居残り練習し、ノックで汗を流す姿があった。中島は体調不良を理由に選出される予定だったWBC日本代表を辞退し、2軍主体のキャンプに参加していた。昨季はフル出場を果たして日本一に貢献。さらなる向上へ今季にかける思いも強く、「今年はホームランを打ちます」と宣言していた。だからこそ「それが本当に打ったからなあ」と感慨深げに話した。

 中島をプロの世界へ導いた。「ボールを捕るハンドリングがうまい。軟らかい」と守備力の高さに引かれた。他球団がノーマークのなか自信を持って推した。「年始のスカウト会議で『ショートができるショートを探してください』って言われたんだ。内野手で入っても外野手に転向する選手が多くて。これはショートができるって思ったんだ」と振り返る。「でも球団からのあの言葉がなかったら、(指名は)辞めておこうって思ったかも」と笑って明かすほど、打力の評価は高くなかった。だが、ボールさばきの柔らかさからバットコントロールのうまさは認めており「パワーをつければ、そこそこ」と期待はしていた。そんな思いに応えてくれたのも、うれしかったに違いない。

 初アーチをきっかけに、中島の打撃は好調だ。1割台で苦しんでいた打率は2割台に乗り、8月に入ってからの打率は15日時点で3割8分7厘でチームトップ。「ホームランはホームランだけど、今度は(テラス席ではなく)スタンドに入ればいいね」と、エールを送るプロ入りの恩人へ、また活躍を届けて欲しい。【日本ハム担当=保坂果那】