元阪神の藤川球児氏(2020年11月10日撮影)
元阪神の藤川球児氏(2020年11月10日撮影)

今季限りで現役引退した阪神藤川球児投手(40)にまつわる取材の機会に恵まれた。かつてのチームメートやスタッフに話を聞くうち、藤川氏の生きざまの一端を知ることが出来た気がした。

現在、智弁和歌山で野球部監督を務める中谷仁氏(41)は、1学年上の先輩。同じ「阪神高卒ドラ1」として、2人で2軍で練習に励んだ日々や、希代の守護神の原点を教えてくれた。

中谷氏は、初めて藤川氏のボールを受けた時のことを鮮明に覚えていた。高校3年時に参加したブラジル遠征。そこに2年生で参加していた2人のうちの投手が、藤川氏だった。「真っすぐ、カーブしかなかったんですけど、両方のボールがもうキレるというか、本当にコントロールも良くて、すごくいいピッチャーだなって」。実績のある3年生を含めても、伸びしろはナンバーワンだと感じたという。打っても内野を守っても、野球センスは抜群だった。2人はブラジルでのホームステイ先も一緒。「仁さん、僕、プロ行けますか?」「普通にケガさえなければいけるやろ」。未来の虎戦士たちは、夜な夜な野球の話で盛り上がっていた。

取材の終盤、藤川氏が日米通算250セーブを目前にして引退したことに話が及んだ。思いを想像しながら話す中谷氏の優しい表情が、とても印象に残っている。「人のため、誰かのためっていうのを貫き通している。自分の記録よりも、後輩たちに伝統を残すんだという、そういうかっこいい男なんじゃないかな、と」。残り5セーブを達成するために自分が登板するよりも、その試合を後輩たちのチャンスのために。去り際には、そんな思いもあったのかもしれない。

「財を残すは三流、地位、名誉を残すは二流、人を残すは一流」。2人の恩師である故野村克也氏がミーティングで話していた言葉だと、中谷氏は教えてくれた。名将の教えを胸に藤川氏が大事にしてきた猛虎魂は、チームに受け継がれたはずだ。【阪神担当 磯綾乃】

智弁和歌山の中谷監督
智弁和歌山の中谷監督