野球の国から

九州の球児たち 豪雨からの復興願いハツラツプレー

<特別な夏・高校野球編(8)>

人吉(熊本)の尾崎龍馬内野手(3年)は、7月初旬以降の記録的な豪雨で、甚大被害が出た球磨村にある2階建ての自宅が水没した。14人が犠牲になった特別養護老人ホーム「千寿園」に近く、同村に住む複数の部員宅が全壊した。

7月4日の午前3時半。球磨村から避難指示が発令され、スマホのアラームがけたたましく鳴り続けた。そんな中、瞬く間に1階の浸水で畳が浮き上がり、逃げるように2階に上がった。それでも身の危険を感じ、真っ暗な山道を登って高台に避難。知人宅でひと晩過ごし、水が引いたタイミングで自宅の様子を見に戻った。変わり果てたわが家の姿に、言葉を失った。

2階にあった勉強部屋はタンスが倒れるなど散乱していた。だが、野球道具は無事だった。熊本代替大会を控え、悲しみにくれながら、ぬれたスパイクやユニホーム、バッグ、木製バットなどを奇跡的に探しだした。「部屋はぐちゃぐちゃだったけど、(道具は)流されず、うれしかった」。

7月、御船・矢部戦で校歌を歌い終え笑顔でベンチ前に向かう人吉の選手たち
7月、御船・矢部戦で校歌を歌い終え笑顔でベンチ前に向かう人吉の選手たち

避難所の人吉第一中学校から、豪雨の影響で延期された7月23日の1回戦(御船・矢部戦)に臨んだ。人吉の部員48人(マネジャー6人含む)のうち2割が被災し、家族を亡くしたり浸水被害を受けた。コロナ禍に追い打ちをかける試練の中、復興への願いを胸に尾崎龍は2安打。9-3の初戦突破に貢献した。「地域の同じ経験をした人が前向きな気持ちになってもらえたり、少しはあるかな」。尾崎太透捕手(3年)は、氾濫した球磨川横の自宅が2階まで水没。「勝つことで被災地復興につなげたかった」と懸命だった。

7月、八代東戦で7回コールド負けで引き揚げる芦北の選手たち
7月、八代東戦で7回コールド負けで引き揚げる芦北の選手たち

校舎が浸水した芦北(熊本)は、全国からの支援を力に試合に臨んだ。橋本魁翔主将(3年)が「田んぼみたいだった」というグラウンドは、ボランティアが整備に協力してくれ、何とか練習できるようになった。水につかって使用できなくなったボールやヘルメットもあったが、他県などからの寄付も受け、道具がそろった。寄贈バットで打席に立った部員もいた。

さらに、昨夏甲子園に出場した花咲徳栄(埼玉)のある球児から、小瓶入りの甲子園の砂が3年生7人に届けられた。同23日の初戦で八代東に0-8でコールド負けしたが、橋本主将は「勝っても負けても、感謝の気持ちで試合しようと話していた」と、笑顔のハツラツプレーで応えた。

7月、純真戦で7回無失点と力投した福岡大大濠の宮本
7月、純真戦で7回無失点と力投した福岡大大濠の宮本

熊本市出身の福岡大大濠・宮本光志朗内野手(3年)は、16年4月の熊本地震で被災経験があった。「今回、悲しい思いをしました」。つらい過去を胸に、豪雨被災地に元気を届けようと、奮闘した1人だった。野球が持つ「特別な力」にも後押しされ、九州の球児たちは「特別な夏」を駆け抜けた。【菊川光一】

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