ロッテの球団職員・谷保恵美さん(56)がZOZOマリンの場内アナウンサーとして、早ければ16日のソフトバンク戦で通算2000試合担当に到達する。海風とともにファンの耳を心地よく響かせること32年。“歌姫”の原点や歩みを、全6回でお届けする。節目を間近に控え、彼女は故郷の北海道・帯広へ飛び立った。懐かしい日々を思い出しながら-。
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ロッテの球団事務所は千葉・海浜幕張の、ZOZOマリン敷地内にある。5月24日、彼女はオフィスで、広報室員としての業務をしていた。携帯電話が鳴った。0155。帯広の市外局番が表示されていた。
「弟さんに今すぐ病院に来て下さいって伝えてください、って言われて」
闘病中の父直政さんが息を引き取った。享年87。「万が一があっても帰ってこなくていいから。プロ野球選手は帰ってこれないだろ?」。在りし日の言葉が浮かぶ。チームは福岡→広島と続く遠征に出かけたばかり。しばらくマリンでの放送業務はない。同25日朝、帯広への機内にいた。
「父はそれを思ってね、たぶん、試合のない日に逝ってくれたんだなって思います」
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サブローーーーーーー。海風の球場に響く伸びやかなアナウンスで、一躍有名になった。タニヤスさんでもヤホさんでもなく、タニホさん。入社は90年(平2)。川崎時代の村田兆治から令和の佐々木朗希まで知っている。もうすぐ1軍で2000試合になる。
「なんでしょう、達成とかじゃないんですよね。区切り、目安。この試合は担当ね、っていう試合の穴をあけてないのは良かったと思いますね。それは頑張ってきたなと」
2000試合に加え、連続試合担当も1793試合(7月8日時点)。初芝清の引退試合は40度の高熱で出勤した。「いすにもたれながら、打席ごとに起き上がって。今じゃ許されないですけどね」。高いプロ意識で時代を駆けてきた。
ネット裏一塁寄りの放送室から声を届ける。スコアブック、4色ボールペン、選手名鑑、双眼鏡、のどあめ、のどに良いお茶、電波時計。七つ道具をおともに試合進行や演出を仲間たちと行う。4月10日、佐々木朗の完全試合もフル回転で対応した。記録達成のアナウンスは声が震えた。
「たぶん、興奮状態だったんですね。自分もそこに立ち会っているっていう喜びと、それを場内にいる皆さんと共有しているっていうのが一番うれしかったんですよね」
プロとして丁寧に正確に。時には、スタジアムの空気をマイクに乗せながら。生前の父には「このテレビ局はよくお前の声が聞こえるんだよ」なんて言われたりして、うれしかった。野球部監督として帯広の2校を甲子園へ導いた父。
「父を追って野球を見始めたというか。父と共通の話題やものがほしくて、野球を好きになって」
スコアブックが相棒-。そんな少女だった。【金子真仁】
(つづく)




