海からの風が吹き抜ける。風通しのいい球場だが、酷暑の各地同様鳴尾浜も暑い。ゲーム中、小学生が気分を悪くしてクーラーの効いた本部席で、しばらく休息をとるひと幕があったほど。意外に元気で安心したが、その子を見ながら「これに凝りず、野球が好きであり続け将来はプロ野球選手になってほしいな」との思いで7月27日、阪神ー広島戦を取材した。

 今年の阪神ファームは強い。いつの間にか得点を重ね試合を優位に進めている。足を絡めた野球は相手を圧倒。この試合で足の威力を発揮したのはルーキー熊谷敬宥(23)だ。つい先日ファームに降りてきたばかり。1軍ではあまり試合に出場する機会は少なかったが、ベンチで一軍選手の動きを実際に見て勉強できたはず。もちろん1軍ベンチはゲームに出るのが最大の目標ではあるが、まわりを見て技術面をはじめ、状況判断などを自分の目で確かめて、貪欲に吸収する場所でもある。

 勝負を決めた5回の攻撃。先頭打者で右前打。二盗を決めたあと山崎の遊ゴロで三塁。江越が歩いた後の高山の一ゴロで果敢にスタートを切り、キャッチャーミットをかいくぐって生還した。熊谷ならではの思い切りのいい判断、迫力ある走塁はやはり魅力がある。戦力として貴重な選手であることは間違いないが、足の威力を発揮するために必要不可欠なのが出塁。出塁するためにしっかり身に付けるべきはバッティングだ。レギュラー取りを考えた時も1番の強みになるのはバッティングである。「いま、1番のテーマはバッティングです」本人も分かっている。厳しいのは、今年入団してから挑戦している「左打ち」だ。簡単にマスターできるものではない。

 スイッチヒッター。タイプとして狙いはいいが、完全に自分のものにするまでの過程が大変。並みの練習では追い付かない。浜中バッティングコーチに現状を聞いてみた。『レベルは低いですけど』の前置きしてから話しを進めてくれた。『まだまだというのが現在の力です。もちろん、始めた頃に比べれば良くはなっていますが、これからどんどん打ち込んでいかないといけません。ただ、おもしろいことに熊谷には対応力があるといいますか、練習より試合の方がうまいこと打つんですよ。とにかく、バットを強く振れるようにすることです』と見ている。

 思い出した。赤星氏(現評論家)が入団した2001年のキャンプで、こう語っていたことを『プロのスピードについていくため、バットを強く振れるようにすることを心掛けて練習をしてきました』とー。同氏同様、熊谷も小柄だ。一度赤星先輩のアドバイスを受けてみるのも一考の価値ありと思う。

 5打席、4打数、2安打、2得点、1盗塁、1犠打が27日、鳴尾浜球場での成績。左打席で2本のヒットを放った。5回カンポスから右前打、8回ジャクソンから左前打。気を良くしているかと思えば『ヒットが出たからといって納得できるような力はまだ持っていません。いまは、タイミングをうまくとれるようになることをテーマにバッティング練習をしていますが、とにかく実力のない僕には練習で打って、打って、打ちまくり、バットを振って、振って、振りまくって強く振れるようにしたい』野球漬けになることだね。本意ではなかっただろうがファームに降りた。打ちまくる練習ができるチャンスを得たと思うことだ。

 ダントツだった盗塁数も、1軍へ行っている間に、同じく新人の島田に抜かれ、江越が追いあげてきた。7月27日現在、島田22、熊谷21、江越20と高いレベルで競っている。矢野監督の方針「ライバル意識を持て」はいやがうえでも高まっている。火花を散らしているだろうが、バッティングと盗塁。将来を見据えた場合、現段階ではやはり打撃に練習の比重をおくべきか。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)