いつもとは違う夏の高校野球が間もなく終わろうとしている21日、1本の映画が公開された。

タイトルは「甲子園 フィールド・オブ・ドリームス」。米国でも活躍する山崎エマ監督が手がけた国際共同制作作品で、今年6月には米国スポーツ専門チャンネル「ESPN」で全米に放送され、大きな反響があったという。

舞台は2018年。夏の甲子園が100回大会を迎えた年に、山崎監督らが横浜隼人(神奈川)花巻東(岩手)の硬式野球部にのべ300時間以上、密着して撮影を重ねた。

作品は横浜隼人・水谷哲也監督(55)を中心に進む。故郷の徳島から神奈川、そして師弟関係にある花巻東・佐々木洋監督(45)へと広がる物語。昭和、平成と白球と過ごし、佐々木監督に預けた次男が令和に夢を追う物語。戦後の日本の移ろいとともに“海外から見た甲子園”が、1時間半に表現されている。

水谷監督は、ホームベースを家に例える。「家から出た選手がいろいろな困難に打ち勝って、もう1度家に帰ってくる。野球だけは人が得点になる球技。だから、人を大事にしなくてはと思うんです」。理念は自然と、あらゆるシーンからにじみ出る。

仲間の成功を全力でたたえる。自分も心底悔しいのに、泣き崩れる友に肩を貸す。大勢の前で自分の弱さをさらけ出す。夢を何げなく語り合う。野球を離れれば無邪気にはしゃぎ合う。教え子の成長を信じ、真っ正面から時に厳しく指摘する。彼らの思いの強さに、時には大人が一緒に泣く。限られた数の背番号に、眠れぬほど悩む。高校野球のリアルが描かれている。

今やもう、懐かしささえ感じる情景だ。新型コロナウイルスは今年の3年生球児から甲子園への道筋だけでなく、青春の学びの機会を多く奪った。映画に登場したシーンの数々は、少なくともこの夏は「当たり前」には存在しえなかった。来年がどうなるかもまだ、誰にも分からない。

全国各地で甲子園を目指す努力は、それでも続く。劇中の言葉を引用する。「時代とともに変えるべきもの、変えてはいけないもの」。いわゆる肩・ひじ問題、野球人口の減少、酷暑…。コロナ禍がこの先収束しても、高校野球をめぐる議論は続いていく。

米国の視聴者たちは「KOSHIEN」の魅力をこの作品で知り、興奮し語り合ったという。“変えてはいけないもの”のヒントは、スクリーンにたくさん映っていた。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)