19日から最終クールが始まる阪神の秋季安芸キャンプ、ある意味、目立っているのは内野守備走塁コーチの馬場敏史かもしれない。三塁の守備力アップを目指す佐藤輝明ら若い選手に連日、指導を続けている。

指揮官・岡田彰布の復帰もあり、詳細に秋季キャンプを報道する関西のスポーツ紙で「馬場コーチ」という名前が出る状況はめずらしくない。本人にすれば、関西弁で言うところの「こそばい」ような思いをしていることと思う。

馬場を知ったのはオリックス・ブルーウェーブを取材していた90年代半ば。もっとも印象深かったのは「がんばろうKOBE」でパ・リーグを制し、ヤクルトに挑んだ日本シリーズだ。ここで馬場は三塁手として美技を連発する。それまで馬場の名を知らなかった野球ファンにも「守備の名手」として認知されるようになった。

その後、知将・野村克也が率いていた、そのヤクルトに望まれて移籍。そこで現役を終えた後は両軍のコーチ、さらにDeNA、西武でも指導者を務めた。あの日本シリーズが馬場の野球人生に大きな影響をもたらしたと思う。

馬場で有名なのがドラフト時の様子だ。馬場は89年のドラフト5位でダイエー(当時)に指名されている。この年のドラフトの目玉は何と言ってものちに日米のレジェンドとなった野茂英雄だ。新日鉄堺の野茂に8球団が1位指名。抽せんで近鉄が交渉権を得ている。

当然、同社にはメディアも集中。野茂のための記者会見が準備された。その設営に汗を流していたのが同じ野球部員で3歳年長の馬場だ。ドラフト会議の途中で馬場も指名されるのだが、周囲はほとんど意識せず、馬場もそのまま設営を続けたという。「どれだけ地味なんだ」という話だ。

そんな男が阪神のコーチになった。名前が出たとき、本人に電話してみた。「いやあ。阪神ってねえ。びっくりですわ。岡田(監督)さんとはオリックスでチラッと一緒だっただけですけど。でもユニホームを着られるのはありがたいし、頑張ります」。馬場は静かに話していた。

5年連続で失策数は12球団ワーストと枕ことばのように出てくる阪神。来季へ向け、大きな課題である。守備力向上には本人の努力が一番、重要だ。同時に初めてタテジマのユニホームに袖を通した馬場の指導力にも期待したい。(敬称略)

馬場コーチ(右)の指導を受ける阪神佐藤輝(2022年11月16日撮影)
馬場コーチ(右)の指導を受ける阪神佐藤輝(2022年11月16日撮影)