広島新庄が天理(奈良)との接戦を4-2で制した。明光(みょうこう)竜之介外野手(3年)が、5回に母親譲りのパワーで右中間へ決勝の適時二塁打。強打を誇る昨秋の近畿王者に11安打で打ち勝ち、4月から指揮を執る宇多村聡監督(33)は甲子園初勝利となった。

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2-2の5回1死二塁の場面だった。6番明光は131キロの内角高めの球を振り抜いた。「しっかりミートしてランナーを進めようと思った。打った瞬間に、あのコースだったら自分が二塁まで行けると考えて走りました」。打球は右中間の浅めに落ちたが、快足を飛ばした。これが決勝打となった。

明光の母いづみさんは、実業団に所属し、やり投げで全国大会11度の優勝を経験した。身近な家族からトレーニング方法を教わってきた。器具を使ったものや、体幹や自重を生かしたトレーニングなど、幅広く学んだ。「小学校のころから肩や肘を壊さないように言われてきた。そのおかげでここまで大きなケガをせずにやってこられた」と感謝した。

兄虎之介さん(21)は、創志学園(岡山)野球部OB。現役時代の17年、チームはセンバツに出場した。虎之介さんは2年までベンチ入りしていたが、ケガで選手として聖地には立てなかった。試合に出られなかった兄の分まで。明光は懸命にバットを振り抜いた。「2人にしっかり結果を残したよと言いたいです」と晴れやかな表情を見せた。

目標はプロ野球選手。日本高野連とNPBが主催する「プロ志望高校生合同練習会」や、独立リーグのトライアウトに参加して、夢をつかみ取る。育ててくれた家族へ恩返しだ。

明光の一打で勢いに乗ったチームは8回にも1点を加えた。昨秋の近畿大会で履正社、大阪桐蔭の大阪勢を破って頂点に立った天理の6安打を上回る11安打を放って快勝。甲子園初勝利の宇多村監督は「みんなでつないでつないで点を取るのがチームの強みだと思っている。その強みを発揮できた試合かな」とナインをたたえた。センバツが中止となり、初めての聖地は、1戦のみの特別な大会になった。「特別な場所だとあらためて。甲子園に立てるのは幸せなこと。無観客とはいえプレーできる選手は幸せ者だなと思います」と目を細めた。【湯本勝大】