待望の1発だ。広島田中広輔内野手(29)が5回、DeNA今永から1号2ランを右翼席に運んだ。開幕から不振を極め、今季153打席目の初弾となった。さらに5月4日巨人戦の3打席目を最後に無安打が続き、20打席ぶり安打でもあった。不振を抜けるきっかけと願うアーチは、再び借金生活となったチームの希望となった。

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大量6点を追う5回、大きな歓声に押されるように、田中の打球は右翼席最前列に吸い込まれた。着弾を確認すると、さらにスタンドがドッと沸いた。極度の不振に悩む絶対的主力の20打席ぶり安打は、待望の今季1号となった。

3回の打席に向かうときも大きな拍手が注がれた。二飛に倒れ、声援はため息に変わるも、ファンの信頼の表れだった。試合前まで打率1割6分。それでも守りではセンターラインを形成する。失策数ばかり注目されるも、遊撃に田中がいる投手への安心感は計り知れない。菊池涼同様に代えの利かない選手といえる。スタメンから名を外さないのは首脳陣の信頼の表れだ。

不振を極める間も、自分の成績ばかりを追いかけていたわけではない。「打つだけではないので。守りもそうだし、打撃でも意味のある凡退もある。そこはきっちりしていきたい」。チームの勝利に貢献することだけを考えていた。

もちろん、もがいてもいた。打撃練習中に昨季までチームメート丸(巨人)のように左足を上げるタイミングでグリップをヒッチさせる形を取り入れることもあった。昨季終盤にメーカーに依頼していた巨人坂本勇モデルのバットを、シーズン途中から練習で試してきた。「いろいろやっていかないといけないので」。決してつらい表情を見せようとはしなかった。

チームは完敗で再び借金生活となった。それでも、田中を信じて先発起用し続ける緒方監督は「久しぶりの感触だったんじゃないかな。何か1つきっかけになってくれればなと。練習自体は、少しずつ打撃の調子が戻ってきているのは見える」と期待する。ただ、本人の表情はまだ晴れない。「何もないです。積み重ねていけるようにやっていきたい」。試合後も言葉をのみこんだ。けん引役としてチームを勝利に導いてこそ、本来の田中の姿といえる。【前原淳】