6月の第3日曜日は「父の日」。幼き頃に追いかけた父の背中、遠く離れて暮らす父への思い、そして感謝の気持ち。野球人たちが父親との濃厚な思い出を語った。

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ミットには穴が開いていた。それを、激戦の東都リーグで大切にする捕手がいる。立正大・立松由宇(3年=藤代)。中心部分には亀裂がある。捕球を繰り返す中で皮革が擦り切れ、ちぎれて裂け目ができた。

手袋はしているが、ほとんど素手レベルの衝撃が走る。それでも使う。「捕球時は痛いですよ。でも、その痛さ以上にキャッチングがしやすいんです」。

父弘通(ひろみち)さん(50=会社員)が、大学入学前に買ってくれた。7万4000円。プロも愛用するハタケヤマ製。リーグ戦でヒモが切れて予備のミットを使った。スタンドから見ていた弘通さんは「やっぱりもたなかったか。もういいんじゃないか」と、ミットの寿命に触れた。それでもすぐに修理に出した。父と母・洋子さん(48=介護福祉士)への、それが由宇の姿勢だった。

同じ大学に双子の弟・峻(3年=藤代)がいる。内野手としてベンチ入りを狙う。峻も大学進学時に6万円のファーストミットを買ってもらった。「もっと安いのでいいと言ったんですが、父は『長くやるなら、いいものを使え』って」。

峻は兄よりも出遅れている。もがく弟に短いラインを送った。「早く上がって来い」。峻の目に涙があふれた。「泣きました、悔しくて」。自分を思い叱咤(しった)する兄と、結果を出せないもどかしい自分が入り交じり、涙に変わった。

峻のファーストミットも表面は削れて白く変色してきた。それを大切に使う。兄がミットを使い込む姿がかぶる。「1個のミットを長く使う。それは兄弟で共通なんだな」。

由宇はプロ入りを目指し、常に弟の存在を思う。そして父が贈ってくれた道具が2人を支える。由宇はミットの裂け目でボールを受けながら、同時に父が高価なミットに込めた愛情を感じているはずだ。【井上真】