コロナに負けるな! オリックス吉田正尚外野手(27)が、陸上男子ハンマー投げの04年アテネオリンピック(五輪)金メダリスト、スポーツ庁長官の室伏広治氏(46)から「日本元気指令」を受けた。16年オフに吉田正が手紙を送って始まった「室伏塾」に5年連続で参加。年々力をつけて、昨季は初の打撃タイトルとなる首位打者に輝いた。このほど電話取材に応じた室伏氏は、吉田正の成長を喜び、東京五輪で日本中に明るいニュースを届けるよう求めた。【取材・構成=真柴健】

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5年目の「室伏塾」で吉田正が受け取ったものは、とてつもなく大きな指令だった。室伏氏から「神戸は(95年に)阪神・淡路大震災もあった。当時オリックスの選手はずいぶん地元の方々、被災された方々に勇気を与えたと思う。プロ野球は地域に根付いているもの。地元の方々、日本中に明るい話題を届けてほしい」。コロナ禍が収束しない中、スポーツ庁長官からの直々の“依頼”だった。

5年連続の室伏氏の指導によるトレーニングで、日本を勇気づけられる力を持つ選手になれた。昨秋に長官に就任した「塾長」は、3年連続で全試合出場、昨年は打率3割5分で首位打者を獲得した愛弟子の成長を「意欲もあるし、相変わらずハングリー精神を持ってやっている。もっと頑張ろうという姿勢は本当に素晴らしい。昨年は年間を通して非常に調子も良く、自分のメンテナンスをする能力が高まっている。みんなに安心して見ていただけるプレーヤーになった」と褒めてくれた。

プレーだけでない。今季からオリックスの選手会長に就任。コロナ禍で練習、試合の様式が変わる中、中心選手としての振る舞いが求められるが「コロナで大変な時期に、選手の立場で(周囲の)選手のために動く。それは球団の期待、球界の期待があってのこと」とリーダーとしての資質にも太鼓判を押してくれた。

室伏氏からの期待は未来へも及ぶ。五輪に4大会連続で出場し、41歳まで第一線で現役を続けた同氏から「長くやれば運もついて、成績を残すチャンスは出てくる。スポーツは奥深い。若い頃には分からないこと、年齢を重ねて分かってくることもある」と金言をもらった。鉄人流の故障の防ぎ方を指南され、瞬発力を高めるメニューに加え、体幹部分を鍛え直した。

「継続的に。知識をミックスさせると、引き出しがドンドン増えていく。その積み重ね」と吉田正は受講効果を語る。96年を最後に12球団で最も遠ざかっているリーグ優勝、東京五輪の金メダル。コロナ禍でも負けない。スポーツの感動、興奮を日本中に響かせる-。「向上心を持って新しいことに挑戦し、柔軟に対応すること。何でも1番を目指してやっていく」。長官からの熱いエールにこたえてみせる。

◆きっかけ 吉田正が“ラブレター”を送った。16年オフ、人気テレビ番組「筋肉番付」で、他競技の一流選手をスピードとパワーで圧倒する室伏氏を見て感動。「すごいアスリート。いずれは会って話を聞ければと…」と思いを募らせた。面識はなかったが、室伏氏宛てに直筆の手紙を送ったことで弟子入りが実現。

◆17年1月 室伏氏考案のハンマーをぶら下げたバーベルを揺らす練習などを実施。室伏氏からは「探究心がある。直筆で手紙を書くところに姿勢が表れている。将来は球界を代表する選手になり、東京五輪に出てもらいたい」とエールを送られた。

◆18年1月 腰の手術を17年11月に受け、完全復活を目指す過程で指導を受け「とても充実した時間。去年以上に自分でも勉強しながらできた」。

◆19年1月 前年はリハビリ中心のメニューだったが、胸椎まわりの柔軟性を保ちながら周辺の筋力増を図った。室伏氏からは「いただけるタイトルは全部とってもらいたい」と指令を下された。

◆20年1月 新メニューのエアハンマートレで肉体強化。重さ10キロのハンマーを振り下ろし、途中で止める。「途中で止めるから意味がある。体の使い方の導入部分。体だけ強く作り上げてもダメ。力の使い方を知っておかないと」と室伏氏。吉田正は「五輪に出場して、室伏さんにいい報告ができるようにしたい」と意気込んだ。