コロナ禍でも変わらないものがある。巨人は25日、42年ぶりの募集となる新ウグイス嬢の審査を行った。巨人のウグイス嬢として45年目を迎える山中美和子さん(64)が審査員として参加。新任ウグイス嬢に求めるのは「野球が好きなこと」。無観客で始まるキャンプでも「普通にするのが一番」と不変を貫く。昭和から平成をまたいで令和と、変わらずバトンをつないでいく。

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ウィズコロナの中、2月1日に球春を迎える。静かなグラウンドに、打球音や捕球音が響き渡るだろう。スタンドを見渡してもファンはいない。紅白戦があっても、アナウンスをするか不透明な中でも、山中さんは「普通にやるのが一番大事だと思っているんですよね。なかなか難しいじゃないですか。すぐ動揺しちゃうタイプだから、普通にできたら一番」と笑った。多くのことが当たり前でなくなった今だからこそ、変わらない声で安心を届ける。

変わらずつないでいくものもある。新任ウグイス嬢は複数回の審査後、合格者は研修を経て3月に“初鳴き”を予定。後進に求めるものは「野球が好きなこと」とシンプルだった。

77年の入社当初、先輩に「どのタイミングでアナウンスすればいいか分からない」と質問したことがあった。答えは「自分が聞きたいタイミングで言えばいい。野球を好きになりなさい」。元々巨人ファンだった山中さんはすんなりと納得できた。40年以上もウグイス嬢を続けていても、この信念は変わらない。

先輩から学んだ伝統を継承しながら、自らが得たエッセンスも加えて未来に託す。キャリアが20年を超えた頃、アナウンスに少し感情を込めるようになった。「ホームでやる時には感情を出していいんだなって。大逆転してうれしい時には弾んだ気持ちでいることを場内放送に乗せていいんじゃないかって」。入社当初の「場内放送は審判の代わり」という教えに自分の色をまぶした。ファンだからこそ分かるタイミングや0・1秒ほどの微妙な間で変化を付け、ファンの盛り上がりを助長する。技術革新が続いても、ウグイス嬢は未来へと続いていくと信じている。

今も多くの人々が、新型コロナの影響で苦しんでいる。「野球に携わっている人は自分の仕事ができる。こうやってできる今、ありがたいなと思って放送していきたいなと思っています」。選手には、どんな時代でも変わらず野球に打ち込んでほしいと願う。ウグイス嬢の自分にできるのは、いつでも変わらない「普段通りの声」を届けること。変わっていく光景の中でも、聴き心地のいい、おなじみの伸びやかな声を響かせ続ける。【久永壮真】

○…山中さんは、コロナ禍で増加するオンライン会議を円滑に進めるコツに「口の開け方」を挙げた。「リモート会議は1度しかしたことがなくて」と苦笑いしつつも「口をなるべく大きく開けて話すと、一語一語がはっきりします」とアドバイス。口とマイクとの距離は握り拳1つ分ぐらいを推奨し「マイクに近すぎると(声が)割れちゃう可能性もあるから気をつけて」と話した。

◆山中美和子(やまなか・みわこ)1956年(昭31)11月4日、神奈川生まれ。追浜高(神奈川)では野球部のマネジャーを務めた。高校卒業後、神奈川県高野連に就職。巨人の場内放送係募集に応募して採用され、77年8月から球団職員としてウグイス嬢を務める。16年の定年後は専属ウグイス嬢として契約更新し場内放送係。印象に残る選手は「王さん、中畑さん、阿部選手ですね」。腹筋50回と発声練習を日課にする。