プロ野球には多くの魅力がある。投手の球速もその1つだ。

メジャーではエンゼルス大谷翔平投手(27)が160キロ前後で押しまくり、日本でも巨人ビエイラが歴代最速166キロをマークした。一方で球速が全てではない。ロッテに昨秋育成ドラフト4位で入団した佐藤奨真投手(23=専大)は137キロ前後の直球が主だ。それでもすでに2軍戦で完封勝利も経験した技巧派左腕に、オンラインインタビューで現況を尋ねた。【金子真仁】

  ◇  ◇  ◇    

1年前の夏を思えば、充実の時間が流れる。佐藤奨真はここまでイースタン・リーグで9試合に先発し、4勝を挙げた。

「最初はボールとか雰囲気とか全然違って、慣れるのに少し時間がかかりました。でも、思っていたよりも自分の投げる球が2軍戦とかならある程度は通用するなという印象です」

投手の球速がどんどん速くなっていく現代で、己を貫く。137キロ前後の直球で時折空振りも奪う。あこがれるソフトバンク和田ほどリリースの特徴的なフォームではない。個性的な変化球もない。それでも、着実にアウトを重ねる。

それならば、直球の回転数がすごいのだろうか。「だいたい、1900から2000回転くらいです」と決して強烈な数字ではない。それでもよく差し込み「直球でフライアウトが多くなっている試合はだいたい調子がいいですね」とリズム良く投げている。

「緩急とかもあると思うんですけど、自分の場合は回転数と球速の割にホップ率が普通の人より高いみたいで。回転効率がいいのかなと」

この直球を主たる武器に、カーブやスライダーを交ぜ、丁寧に投げる。入団前から一貫して、自身のストロングポイントに「奥行き」を挙げていた。

「チェンジアップと直球で同じ軌道で球速が違うとか、ボールの出所が見えづらいとか、いろいろな要素があると思います。剣道でうまく間合いを使えるような感じで、と教わりました。相手の間合いでいかないようにと」

直球が130キロ台だけでも、数値にできない才能を高く評価した人がいた。ロッテの福沢洋一スカウト。捕手出身で、引退後は2軍監督も務めた目が「通用する」と認めた。

コロナ禍で個人練習が主だった1年前の8月、福沢スカウトから評価されていることを初めて耳にした。

「社会人(野球)に行きたかったんですけど、コロナの影響で、進路の話もなかなか進まなくて。不安の方が大きかったです。そんな時に福沢さんに評価していただいていると知って。うれしかったですね。評価していただいたのはマリーンズさんだけです」

期待に応え、7月11日のDeNA戦(平塚)では119球の完封勝利を挙げるなど順調だ。とはいえ支配下登録へ、もちろんまだ課題もある。

「追い込んでから粘られることが多くて、決め球が定まっていないので。チェンジアップの精度を今よりも上げられるように練習しています。球速も欲しいところではあるんですけど、上げようとすると力みになっちゃうので、あえてそこは考えすぎずに。平均球速はもう少し上げたいです」

球速も欲しい-。投手なら誰でも持つ願いは、寮の部屋に戻ってから満たす。趣味の野球ゲーム「実況パワフルプロ野球」をスイッチオン。「サクセス」という、能力を設定しながらオリジナル選手を作成できるモードがある。当然、自分の分身をつくる。

「球速を上げますね。思い切り。最速160キロまで上げたこともあります。現実では絶対に無理なので、夢の姿を」

緩急に、ポーカーフェース。現実の自分と同じ2つの特殊能力をしっかり分身にも与えて、1軍での活躍を夢見ながらボタンを押す。