阪神矢野燿大監督から飛び出した突然の退任発言は理解しがたく、ふに落ちないものだった。自身が退路を断って臨むのであれば、その意気込みを胸の奥に秘めて戦いに臨むべきではなかったか。

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キャンプ直前に公表することで、チームの戦意を高めることにつながると考えたのだろうと賛同するむきもあるが、そこは逆効果になる危険性もはらんでいる。

退任発言の真意は本人にしかわからない。だれもが優勝を信じて疑わなかった昨シーズンで自身の采配力の限界を悟ったのだろうか。そしてまた、なぜこのタイミングだったのか? 

今回、現場監督が突如として進退を明かしたことは、少なからずチームにも動揺を与えただろう。事あるごとに選手間では後任監督の話題になるし、とてもシーズンに集中できるとは思えない。

それと矢野監督は就任以来、「ファンのために」という信念を貫いてきたはずだ。心から声援を送り続けてきた阪神ファンも複雑だろうし、素直に受け止めることができるだろうか。

もっとも3年契約を終えた矢野監督にとっては、あらためての1年契約だったから、いずれにしても背水の陣であることに変わりはない。優勝するしか生き残る道はなかったのだ。

一方、監督がユニホームを脱ぐ決意を示したことで、阪神本社、フロントはペナントレースの順位にかかわらず、同時に「ポスト矢野」をにらんだ動きをみせることになった。ペナントレース中も、ポスト矢野をにらんで落ち着かないシーズンになる。

球団は社長に百北幸司氏が就き、藤原崇起氏がオーナーに専任する刷新人事を行ったばかり。生え抜きか、内部昇格か、外部招へいか--。優勝から遠のく名門球団は、いきなり新体制フロントの手腕が問われる年になった。【編集委員・寺尾博和】