阪神のセットアッパーで大活躍中の湯浅京己投手(22)が、快投を続ける秘密はどこにあるのか。元阪神投手コーチで日刊スポーツ評論家の中西清起氏(60)が「解体新書」で特長を解説します。疲労軽減を考慮した戦略的抹消を経て、再開リーグ戦でも8回の男として奮闘中。リーグトップの24ホールドポイントで新人王&最優秀中継ぎ投手賞も狙える右腕に、「火の玉」が代名詞だった絶対的守護神をダブらせました。【取材・構成=松井清員】

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湯浅は身長183センチの真上から腕を振り下ろせて非常に角度がある。最速も156キロと威力があって、投げっぷりもいい。入団3年間は腰痛などの故障に泣いた。でもそれらも癒え、抜てきされた2月の宜野座キャンプでは特別目立っていた。若いし怖さ知らずで力がある。久々にイキの良い若武者が出てきた印象だ。

オーバーハンドの手本に近い投げ方で、<1>~<3>とスムーズに始動。<2>~<4>で右の軸足をしっかり伸ばし、体重を預けている。<5>~<6>はヒップファースト。お尻から先に出すイメージで、左足が右足にクロスしながら出て行くことで、体にパワーが充満する。下半身からの力、捻転力が使える。

<8>~<9>のテークバックも非常にコンパクトだ。1度下ろしたボールをさっと真上に上げ、右手で敬礼するようにトップをつくっている。右手を大きく振るとトップの位置が不安定になり、コントロールに影響するがその心配がない。トップの作り方が非常にうまい。

ただ、<10>~<11>は、以前故障した要因の1つかも知れないが、腰に負担がかかる懸念がある。真上から振ろうとするあまり、胸の「Tigers」の文字が空の方向を向いている。その分、背中側に体重がかかり、エビ反りのような態勢になって腰に負担がかかる。肩のラインが、もう少し真っすぐ骨盤のラインに入れば…。少し上体を前にしておなか、へその部分に力が加わるようにできれば、負担の少ない投げ方ができる。

<12>~<13>にかけてのフィニッシュは抜群だ。頭が左足のつま先より前に出て、右の肩のラインが左の膝の上にしっかり振り切れている。<3>~<12>とドライブしていく中で、上半身から下半身への体重移動にバラつきがあると、<13>のように左足1本でしっかり体重を支える形にはならない。体重移動のバランスが最良だから、投球にパワーを伝える完璧なフィニッシュができる。

真っすぐ以外の最大の武器はフォークだ。縦回転の球種を長身の真上から振り下ろせるから落差もある。この投げ方だと他の変化球は、横のスライダーよりカットボールやツーシーム系が効果的だが、1イニングならカウント球は必要ない。今の役割なら、真っすぐとフォークだけで十分だ。

将来的には、藤川球児に匹敵するポテンシャルを感じる。特に<12>~<13>は球児をほうふつさせる。球児も真上からバシッと角度のある球を放れる投手だったが、湯浅もそれぐらい上からたたけている。同じく短いイニングで爆発的な力を出すタイプだろう。投球を重ねてコツを覚えれば、真っすぐと分かっていても空振りが取れる、スピンの効いたボールを投げられる素材だと思う。22歳と若く、体力、筋力もまだまだ強くできる。近い将来、守護神を任されてもいい資質がある。

首脳陣は交流戦最後の1週間で登録を抹消し、戦略的休養の措置を取った。昨年までの1軍登板がわずか3試合で故障歴もあった。8回の男抜きの戦いは苦しかったと思うが、素晴らしい判断だった。若いこれからの選手で、大きな故障が一番怖い。疲れが蓄積してから休ませても、疲れが取れなければ手遅れだ。疲労が取れる状態の時にリフレッシュさせたのは、再開するリーグ戦で逆襲を期す意味でもいい温存になった。

湯浅も新人王の権利を持ち、巨人の守護神大勢らがライバルになりそうだ。ただ、チームが勝たないとホールドポイントはなかなかつかない。早く5割に戻して貯金を積み重ね、75~80勝近くいけば、最優秀中継ぎ投手賞に近づける。だが、首脳陣は目先の新人王を目指すのではなく、将来10年以上守護神を任せるぐらいのビションも描いて、今回抹消して休ませたのだと思う。それほど非常に楽しみな選手で、阪神の投手では久々の新星登場を感じる。

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