助っ人の扉がカチャリと開きかけている。西武の新外国人マーク・ペイトン外野手(31)が粘ったのは6回1死一、三塁の打席だ。

日本ハム上沢が徹底して低めに変化球を投げてくる。6球をファウルにし、11球を中前にはじき返した。この日3打点目となる適時打に「2ストライクを取られてから、負けないようにという粘り合いの戦い。今回は自分が最後にしっかりいい打撃ができたよ」。10得点で大勝した打線のキーポイントになった。

1番打者候補と期待され、開幕戦も1番打者で起用された。なかなか結果が出ない。低めの変化球を空振りするシーンが目立った。嶋コーチらにアドバイスを求めながら修正した。「少しずつ慣れてきたのはあるね」。この日のように、低めに曲げられ落とされても、そう簡単には空振りしない。

ペイトンには課題解決への信条がある。

「打席に多く立つこと。それに、自分のスイングを疑わずに、信じてやっていくことだよ」

前に進むその背中を、しかと目撃した。3月30日、開幕前夜のベルーナドーム。夜間練習を終え、電車通勤のペイトンは西武球場前駅へとドーム敷地内を歩いていた。私も記事出稿を終え、たまたま出くわした。「Hi!」。

その笑顔がちょっと曇った。関係者出入り口がすでに施錠されていた。夜間なので当然の警備体制ではある。「NO GOOD」とつぶやくペイトン。うーん。2人で数秒間悩む。

明日は開幕戦だ。ここはとりあえず、別ルートを探さないと。「Please come on!」。高校時代に英検準2級の面接試験に落ちた程度の語学力で、手招きしてリードしてみる。「OK!」と乗ってきてくれた。

あっちなら開いているかな~と半信半疑の出入り口へ向かう。しかし、そんな空気を察知したか。「Come on!」。ペイトンに手招きされ、想像もしていなかったルートへ導かれた。これはもう、付いていこう…。

その後、何個かのドアノブが動かなかった。首をひねっての「NO GOOD」が続く。その迷宮っぷりに私は「ラビリンス…」と知っている単語を口に出すも、ペイトンは折れない。その次のドアノブが回った。「GOOD!!」

かくして“脱出”に成功した私たち。この間、5分少々。先頭にいたのは間違いなくペイトンだった。その真面目さは球団内で高く評価されている。真面目で、しかも頼もしい。

歩きながら、英語で「家まで何分かかるんだい?」と聞かれた。私はけっこう通勤時間が長い。答えると「OH!!」と眉を下げて苦笑いしていた。

青い瞳の助っ人は日本語もしっかり学び、世界を広げたいと願っている。「イチ、ニ…。数字の呼び方は少し覚えてきたよ。とにかくトライアルさ」。

試行錯誤を繰り返し、ようやく調子を上げてきた。松井稼頭央監督(47)も「内容のある打席が多かったですね。いい打席が増えてきたと思います」と感じているようだ。

チームもまた、勝率5割前後を行ったり来たりしている。ペイトンと、この日は4番にも入ったデビッド・マキノン内野手(28)。2人のバットがうなれば、先発投手が強力な西武は一気に乗る可能性がある。

開幕前夜、ペイトンは別れ際に「またあした」と日本語で話し、笑った。大事なのは明日。今日はもう終わった日。油断しそうな心はしっかり戸締まりし、連勝街道への玄関を押す。【金子真仁】

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