「湯浅の1球」が流れを変えた。阪神湯浅京己投手(24)が左脇腹筋挫傷から復活し、絶体絶命のピンチを救った。3-3で同点の8回2死一、三塁で登板。オリックス中川圭を149キロ直球で二飛に仕留め、1球で火消しに成功した。6月15日オリックス戦以来、139日ぶりの1軍登板でぴしゃり。負傷に苦しんだ男が、38年ぶり日本一への最後のピースになる。

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甲子園の空気が変わった。湯浅の名前がコールされると、地鳴りのような大歓声が響いた。同点の8回2死一、三塁で登板。覚悟を決めた。「ゼロで抑えたら流れはくると思っていた。絶対に抑えようと」。

中川圭を初球149キロ直球で二飛に仕留めた。打球が甲子園の夜空に打ち上がると大きく飛びはねた。6月15日オリックス戦以来、139日ぶりの1軍登板で1球に魂を込めた。「湯浅コール」を全身に浴びた。

「甲子園でしか感じられない、ファンの力を借りて投げられた。全ての自分の力を出しました」

伊勢志摩ボーイズで硬式野球を始めた中学時代。内野手としてのセンスは光るものがあったが、打撃練習ではチームメートと比較して、ボールがなかなか飛ばなかった。悔しくてたまらなかった湯浅少年は、父栄一さんから「京己、成長期は人それぞれ違うんや。心配せんでええ」と口酸っぱく言われ続けた。父は、筋肉が発達していくのは、まだ先のことだと確信していた。

母衣子さんは睡眠、食事の管理を徹底。不摂生な生活は成長期を早めてしまう可能性があることを、独学で学んでいた。わが子に、いかに「伸びしろ」を残してやれるか。それが、湯浅家の子育てのテーマの1つだった。

そのかいもあり? 湯浅は「僕、体毛はえてくるの遅かったんですよ」と笑う。「体もまだまだ強くなると思うし、球速もまだまだ上がると思うんですよね」。そう思えるから、リハビリもパワーアップする期間だと捉えられた。湯浅の成長期は中学時代でも高校時代でもない。「今」だ。183センチに無限の可能性を秘める。

みやざきフェニックス・リーグで5試合に登板し、全て無失点。とはいえ、日本シリーズでの登板は、ほぼ「ぶっつけ本番」と言えるが、岡田監督は背番号65を起用した。「ファンの声援でね、ガラッとムードが変わると思ったんでね。だから湯浅にかけましたね」。さらに「明日からはね、普通に湯浅いけると思う」と認めた。苦しんだ男が、38年ぶり日本一へのラストピースとなる。【中野椋】

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