契約更改交渉が終えての会見の席で、西武佐藤龍世内野手(26)は明らかに流れを探っていた。

質問に答える前に0コンマ何秒の余白を入れる。質疑のラリーが8度あり、ようやく明かした。

「まぁ、あの、この場を借りて言うんですけど、背番号も来年変わるんで」

表情も声色も変えない。実にさりげなく、キャンバスに絵筆をそっと置くように大きなことを言った。想像はつく。何番に?

「兄さんの番号です。10番」

兄貴分と慕っていたオリックス森友哉捕手(28)が、昨オフにFA移籍する前の西武時代に付けていた背番号10。「(将来)何番付けたいかって言われたら、たぶん10番って言ってたと思うので」。

何もかも果敢に振りにいくのはやめた。冷静にボールを見極めて四球を選び、打てる球を一撃必殺で仕留める-。まるで今季の打撃戦略のようなやりとりで、西武ファンをわかせるニュースを公にした。

「ちょっとは大人になったかなと思います」

少し照れながら言った。不祥事もあり、日本ハム移籍もありの波瀾万丈。古巣に戻った今季、第3捕手出場も視野に入るスーパーサブとしてのシーズン開幕だったのに、夏場以降は中軸を任される試合もあるなど、最後はチームに不可欠な打者になっていた。

「とても充実、今までにないくらい充実したシーズンを送れたと思います」

契約更改交渉も倍増となる来季年俸2200万円(推定)でのサイン。来季は球団の選手会副会長も任される。いろいろあったけれど、誰にも負けない練習量で自己変革に努め、ベンチのみならず球団本部からも高い評価を得るまでになった。

数字だけでいえば、91試合で打率2割6分3厘、3本塁打、16打点。それぞれ4割に迫る長打率、出塁率は光るものの、背番号が58→10となるだけの有無を言わさぬ成績ではなかった。

球団はもちろん、佐藤龍が森を慕っていることは把握している。渡辺久信GM(58)は佐藤龍の「10」について「今年はすごく真面目にしっかりやっていた。10番付けたら、もっとモチベーション上がって、もう1ランク(上へと)頑張ってくれるんじゃないか、って期待もあります」と先行投資の意図もあることを報道陣に明かした。

GMは冗談交じりで「早く信用させてくれ」と伝えたという。そんな空気もちゃんと察しつつ、佐藤龍は冗談と受け止めない。

「来シーズンは今年以上に勝負になると思いますし、周りからも期待されて臨むシーズンだと思うので、期待を裏切らないように頑張りたいと思います」

中心選手の自覚を持ちながら力強く会見を締めた新10番に、そそくさと近寄って、両手で「10」を作ってもらった。

「ドカーンと派手に載せてくださいね!」

こうして即座に出せる華やかさも、リーダー格の10番を引き継ぐにふさわしい。【金子真仁】

【関連記事】西武ニュース一覧