MVPや新人王、最優秀防御率などを獲得し、阪神の38年ぶりの日本一に貢献した村上頌樹投手(25)の投球フォームを好評企画「解体新書」で解説します。前回日本一の85年に守護神として、最優秀救援投手に輝いた中西清起氏(61=日刊スポーツ評論家)が大ブレークの秘密を分析。来季開幕投手の最有力候補に挙げました。【取材・構成=寺尾博和】

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素晴らしい年だった。まさにシンデレラストーリーだ。村上の“生命線”といえる制球力は、基本に忠実な投球フォームに支えられている。フォームに迫力は感じない。精巧なコントロールとコンビネーションで勝ちを積み重ねた。

<1>~<3>は上体がぶれていない。しっかり右足で立っている<2><3>は、つま先に頭の軸が乗っているのが分かる。好投手の見本といえる立ち姿で、フィジカル的にうまく骨盤を使えているのだろう。

今シーズンは先発21試合で与四球は15個だけ。制球力のついたボールが、ベース上を通過するときの強さが印象的だった。右打者のふところをしっかり攻めることができるのは大きな武器だ。

<4>から体重移動に入り、<5><6>で右足内転筋にパワーをため込んでいる。この時、右膝が打者の方向に向いてしまうと力が伝わらないが、しっかり右足を押し込みながら移動している。

個人的には、投球フォームを分析するとき、<6>から<8>にかけてを「ビジネスゾーン」と呼んでいる。つまり、先ほど解説した<5>までにため込んだパワーというお金、いわゆる“ゼニ”を一気にばらまくポイントを示しているからだ。

大事な<9>のリリースでは、左足に体重を預けながら、1点に力を集中させていることが分かる。そして<10>から<11>へ、全ウエートをかけて踏み込んでいく。ボクシングのアッパーも、踏み込んだ足の反発力を利用して、下から上に突き上げる。村上も左足で「ドスン!」と着地し、その反動を使って右腕を振り切っている。フィニッシュの<12>で、ちょっと左足つま先が浮いているのは気になったが、踏み込んだ強さによって浮いているのではあれば問題はない。

実質2年目になる来シーズンは、「さらにパワーアップをしたい」と思っているかもしれない。でも、わたしは調子が良いときは、あまり変化を求めないほうがいいという考えだ。例えば上体を鍛えすぎて、下半身とのバランスを崩すケースを見たこともあるからだ。今の特長を変える必要はない。

広島とのCSファイナル、オリックスとの日本シリーズで初戦の先発を任されたようにベンチの信頼は厚い。球団初のセ・リーグ連覇を狙う来シーズンも十分期待が持てる。来年の開幕は3月29日、東京ドームでの巨人戦。今季の実績、安定感から見て、その最有力候補であることは間違いない。

◆今季の村上 4月12日の巨人戦でシーズン初先発し、7回21人をパーフェクトに抑える快投も勝ち負けつかず。同22日の中日戦で「無四死球&2桁奪三振の完封でのプロ初勝利」という史上初の快挙を達成。3、4月の月間MVPを受賞した。球宴にもファン投票で選ばれ、第1戦の先発を務めた。9月8日の広島戦で10勝に到達。オリックスとの日本シリーズでも第1戦の先発を任され、山本相手に白星を挙げた。前年まで通算0勝の投手では初のMVPを受賞し、新人王とのダブル受賞は90年野茂英雄以来3人目の快挙となった。最優秀防御率も獲得し、来季年俸6700万円で契約更改。700万円からの857%増は、球界史上3位のアップ率となった。

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