香川県出身の西武古市尊捕手(21)はやっぱり、讃岐うどんが好きだ。
「オフに実家に帰って食べて。めっっっっちゃうまかったです!」
思いがこもる。何店か常連のうどん店がある。「結局、親の好きな店の味を好きになっちゃうんですよ」だそうだ。
年末年始が終わると一転、きつかった。胃袋がはちきれそう。力ない打球が飛ぶと味方ベンチから「メシ食え~」とやじが飛んだ昨季。もっと大きい体になりたくて、もっと打ちたくて、楽天浅村の自主トレに志願して同行した。
「めっちゃ食べました。しんどかったです、食べるのが、ほんとに」
苦労した甲斐あり、体重は6キロ増えた。線が細くて高校野球引退後、往復3時間を自転車で通学した。地道な強化で、ようやくプロ野球選手らしい肉体をつかみつつある。
プロ3年目で初めて、A班キャンプを完走した。朝から夕暮れまで汗を流した宮崎・南郷スタジアム。25日、全日程を消化した。疲れ果てていても「充実したキャンプでしたね」と表情は明るい。
1年前は2月21日に南郷に着いた。プロ2年目の育成捕手。前々日までは、B班キャンプ地の高知・春野にいた。A班捕手の故障による緊急招集。高知→福岡→宮崎と「ずっと緊張してました」という空の旅を経て、南郷へやって来た。
当時はまだ、球を受けたことのない投手がたくさんいた。「そこはちょっと不安も」とこぼしていた。「でも失うものはないんで」とガムシャラだった。
1年前を振り返る。
「去年よりかはド緊張というほど緊張しなかったなとは思います」
緊張しながら食らいつき、4月中旬には支配下登録を受けた。試合にも出た。ヒットも打った。ソフトバンク周東の盗塁を刺した。何とか勝ち試合のマスクをかぶれた。でも、それ以上に悔しかった。ベンチ裏で涙した試合もあった。
確かな成長を見せ、さらにはずみを付けたい-。そんな折にオフ、球団はベテラン炭谷を獲得した。泥にまみれた支配下と居場所をつかんだ若者は、何を思ったか。
「僕にとってプラスになる部分は絶対にあると思うんです。盗めるところは盗んで、いろいろ聞けたりしてるので良かったかなと思います」
この2月も古市が質問する以上に、炭谷が古市に声をかける場面がよく見られた。肉も付き、知識も付いた。いよいよ対外試合。まずは「開幕1軍です」と目標を掲げる。一足飛びでは奪えないスタメンマスク。苦労する分だけ喜びは大きくなるし、冬の讃岐うどんも格別になる。【金子真仁】