阪神・宜野座キャンプが無事に打ち上げを迎えた。長い1カ月の中で、忘れられない光景がある。

第1クール、初めて間近で見たブルペンだった。ブルペンの記者席と一番手前で投げる投手とは3メートルほどの超至近距離。確か、岡留英貴投手(24)はその1つ向こう側で投げていたと記憶する。

うなりを上げた球が制球よくミットに収まっていた。記者が若手時代、今は亡くなった大先輩に教えてもらった。投手の良しあしを判断するとき、フォームだけではなく、ホームベース付近の球筋、勢いを見るように、と。岡留の球は素人目にもベース付近で強さがあった。そもそも今季のブレークが期待される選手の1人。その日に限っては、失礼ながら重要マーク選手ではなかったが、輝きがあまりに違って見えた。

岡留本人にも素直な感想を伝えた。「すごいね。びっくりした」とファンのような口調で…。「ありがとうございます。でも全然まだまだです。質のいい投球を続けられるようにしないと」と、どこまでも謙虚に話す姿がまた印象的だった。まだキャンプ序盤。個人的な注目選手になった。

順調に調整を重ねた岡留は、4試合無失点と圧倒的な結果を出し、岡田監督から投手のキャンプMVPに選ばれた。指揮官は「1軍戦力としていける確信を持てた。完璧に入り込んだ」と高く評価した。

「確信」という言葉にうなずいた。岡留は昨年6月に1軍デビューして、中継ぎ8試合で防御率1・29と十分な兆しを見せていた。このキャンプは首脳陣にとって、期待が確信になるかの重要なジャッジの時期だったのだろう。

比較していいのか分からないが、岡田監督のもと前回優勝した05年のセットアッパー藤川球児と少しプロセスが重なる。藤川は前年04年途中から1軍に定着。26試合で防御率2・61と大きくハネそうな雰囲気を出していた。

翌05年はセットアッパー「候補」の期待を受けてキャンプイン。そこで見せたブルペンは圧巻だった。球界OBや関係者が無言で顔を見合わすレベル。体も大きくなり、ブルペンを支配するような雰囲気があった。素人目にも、これはものが違うと思ったものだ。

迷わず首脳陣からGOサインが出て、スーパー救援トリオ「JFK」が誕生。春先に放った強烈な光は、衰えるどころか投げるたびに増していった。日本記録(当時)の80試合登板で最優秀中継ぎ投手賞、2年ぶり優勝に導いた。

藤川との比較がプレッシャーになったら申し訳ないが、宜野座で見せた衝撃の球筋が、サクセスストーリーの起点になるのでは…と想像するとワクワクして仕方ない。【阪神担当=柏原誠】

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