日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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“春の嵐”を予感させるのが、開幕カードを勝ち越した日本ハムの存在です。就任3年目の新庄剛志にとっても初体験、今年に懸ける心境は、その表情からも伝わってきました。

拙者もビデオでチェックしながら「絶好球に見逃し三振って、弱気な若手やな」「そろそろ継投か…」と独り言。長年の取材からくる直感でしかないが、穏やかな顔つきが、逆に腹をくくっているように見えた。

「今年ダメだったらユニホームを脱ぐつもりでいるんです。ちゃんと責任をとりたいと思っています。今はそんな気持ちです」

そう打ち明けられたのは、もう桜が満開だった沖縄でのことです。名護キャンプから“ケジメ”を強調していたから、区切りのシーズンに臨む心意気を感じとったものです。

新庄 おれの気持ちはコーチにも伝えました。全員にね。みなさんもそのつもりで、とね。そしたらだれも返事がなかった。ハハハッ!

寺尾 コーチも一緒。チーム成績が悪くなると、自分の就職先を探し始めます。ちゃんと見ていてくださいね。会社でも実力のない人ほど保身に回るものです。ガハハハッ!

南国の青い海を遠目で見ながら、そんな会話を交わした覚えがあります。2年連続最下位でしたが、いかに「守備力」を上げるかにかかっていると思っていました。

寺尾 あんなに素晴らしい球場なのに、ポロポロと軽率なエラーが多いのはなぜですか? 指導者の問題? 選手の資質?

新庄 いや。ぼくもメジャーの経験あるけど、特に天然芝の内野は難しい。芝から土への部分もあって、バウンドに合わせにくい。だからちょっと芝を刈り込んでもらうんです。

逆境を乗り越えた野球人生。イチローと同じ年に阪神からメジャー移籍をしたときは「日本の恥」とまで批判された。でも「イチロー君は記録、ぼくは記憶に残る選手に」と3シーズンを終えました。

パ・リーグ新時代を築いた男。日本ハムで「札幌ドームを満員にする」と言って公約を守った功労者です。監督3年目の意気込みは、いつの間にかドジャース大谷にまつわる事件にすり替わりました。

新庄も40歳手前に、自分の貯金だった20億円以上を知らないうちに使い込まれた。プロ入りから「もっとも信用していた人」が口座を管理していたが、自分の赤字会社に新庄マネーをつぎ込んでいたのです。

でも、その人に会って怒ったのは1度だけで、後になって、不思議とお世話になった感謝の気持ちのほうが強くなったという。その話を聞いたときは、どこまでやさしい人間なのかと思ったものです。

大谷でいう約3倍を使い込まれ、金も、嫁も、すべてを失いました。つらくて、苦しくなって、日本を飛び出し、バリ島で暮らすようになるのです。現地では愛犬だけが、傷ついた心をいやすフレンドでした。

波乱の人生。「ぼくを拾ってくれた日本ハムに恩返しがしたい」。今はその一心と言います。不退転の覚悟で、再びフィーバーするか。後日談はまた書こうと思います。 (敬称略)