暴力問題で動向が注目されていた大相撲の横綱日馬富士(33=伊勢ケ浜)が29日、現役を引退した。日本相撲協会に引退届を提出、受理された。同日に福岡・太宰府市内で行われた引退会見が、平幕貴ノ岩(27=貴乃花)への暴力を認めて謝罪した14日以来、半月ぶりの肉声となった。

<記者の目>

 またかと思った。10年の野球賭博問題、11年の八百長問題以来の相撲担当復帰となったが、また体力の限界を迎える前に角界を去る力士に遭遇した。しかも今回は横綱。誰かがやめなければ騒動が収まらない風潮は、大相撲の不祥事にはつきものといっていい。もちろん、いかなる理由があっても暴力は許されるものではないし、日馬富士は暴力問題の加害者。自ら身を引かなくても、厳しい処分は避けられなかった。

 しかし、やめないまでも再起の道もあったように思う。度重なる注意や出場停止処分も受けた結果、半ば強制的に引退に追い込まれた元横綱朝青龍と、これまで特に問題を起こしていなかった日馬富士では状況は違うように感じる。いっこうに騒動が収まらず、責任を取る形で引退を選んだ。

 野球賭博問題も八百長問題も、相撲協会が自主的に調査し、一定の処分を下した。もちろん双方とも再発防止に向けた結論を導き出している。だが、一定の処分を下すまでに全力を注ぎ、目の前の炎上を一時的にやわらげただけで、火元を完全に消した印象は薄い。

 3年前に公益財団法人の認定を受けたが、過去の不祥事の教訓を生かせず、自浄能力の低さも改めて浮き彫りになった。暴力はいつでも起こり得る問題。今度こそ本気で再発防止を徹底させなければ、日馬富士がやめた意味が何もなくなってしまう。不本意に角界を去る姿など誰も見たくない。【高田文太】