6月22日公開の「天命の城」は17世紀の朝鮮半島を舞台にした歴史大作だ。息詰まる籠城戦は、大坂冬・夏の陣や「太平記」の千早城攻防戦をほうふつとさせる。イ・ビョンホン(47)とキム・ユンソク(50)の初顔合わせ。火花が散るとはまさにこの競演で、戦乱の中で白熱した人間模様を映し出す。メガホンを取ったファン・ドンヒョク監督(46)に聞いた。

 「『丙子の役』はもちろん史実として認識していましたが、プロデューサーから原作小説を渡されるまで、実はその人間ドラマまでは知らなかったんですよ。切迫した籠城戦で、和睦か抗戦か、真っ二つに別れて争う2人の重臣。国の存亡を掛けてそれぞれにスジを通す2人のやりとりは激しく、セリフにすると詩のように美しい。信念と哲学の対決。これは映画的に面白いと思いました」

 後に国号を清に変える後金の侵攻に山城まで追い込まれた朝鮮王朝の存亡を掛けた戦い。「トガニ 幼き瞳の告発」(11年)「怪しい彼女」(14年)などの力作、話題作で知られるドンヒョク監督が初めて挑む時代劇にふさわしい題材といえる。

 明→清と、漢民族からモンゴル族に中国の主導権が切り替わる節目に、明に操を立てていた朝鮮王朝が窮地に立たされる。「中華システム」に翻弄(ほんろう)される周辺国の図式が背景にある。

 ビョンホンが和睦を唱える重臣チョンギル、ユンソクが抗戦派のサンホンをそれぞれ演じている。

 「歴史のうねりを身をもって感じているチョンギルとあくまで明への義を通そうとするサンホン。ある意味どちらも正論だし、いろんな思いも抱えている。熱さ、深さ。昨日今日の役者には演じられません。実力があり、スター・パワーも無ければ、歴史の重さに圧倒されてしまう。王・仁祖役のパク・へイルさんを含め、最初からこの3人が頭にありました」

 和睦派とはいえ、1人敵陣に乗り込んで交渉に臨むビョンホン。表情を殺した目、かみしめた唇…死を覚悟した状況がリアルに伝わる。冷酷にも見える決断の裏で幼い子どもに潤んだ目を向けるユンソク。好演を積んできた2人がさらなる気迫を重ねている。化学反応とはこのことか。

 5カ月間のオール・ロケ撮影は監督としても初めての経験だった。

 「大がかりな戦闘シーンは準備に時間がかかります。実質カメラを回したのは91日間。もともと映画は47日間に起きたことを描いています。真冬のその期間をいかに真冬の間に撮りきるか。そこが課題でした。実は1番苦労したのは人間ではなくて馬の扱いでした。それぞれにテリトリーがあって、他の馬が入ってくるとすぐケンカをする。馬上の人が叫ぶシーンでは、その声に反応して大暴れする。天候も大敵でした。戦闘シーンのクライマックスは1週間かけて撮影しましたが、ロケ地の天気はくるくる変わる。1つのシーンを自然な形でつなぎ合わせるのが何より難しかったんですよ」

 黒沢明監督の「影武者」(80年)や「乱」(85年)に登場する騎馬シーンのような美しさはないが、荒削りな馬の動きが混戦の中で生々しい。

 キャスト陣も厳寒の環境との戦いだった。

 「兵士たちの吐く息が白いのはまさにリアルな環境で撮ったからです。実は当時、城内では火で暖を取ることができなかったので、王に至るまで室内でも重ね着でしのぐしかなかったのです。だから、城内でもみんなの息が白くなくてはいけない。マイナス十数度の状況で戸を開け放し、室内を冷やしての撮影。俳優の皆さんには拷問のような時間だったかもしれません」

 過酷な籠城戦に悲壮感が漂ったわけだ。

 音楽は坂本龍一(66)が担当。「監督は僕の想像よりモダンな音楽を求めていたので、かなり斬新な方向にもっていきました」と振り返っている。「レヴェナント 蘇りし者」(15年)に続き、灰色がかった映像に寄り添うような音楽だ。

 スケール、キャスト、音楽-文字通り大作の見応えだ。【相原斎】