毎回外れのないクオリィティーで楽しませてくれるのが韓国のポン・ジュノ監督(50)だ。

最初に見た作品は16年前の「殺人の追憶」。隙のない構成力の感服した。どろどろとした殺人事件の裏側を描きながら、見終わった後には不思議とスッキリとした気持ちになる作品だった。

3年後には「グエムル 漢江の怪物」で、クリーチャー映画に真正面から取り組んだ。ある意味宣伝マン泣かせで、試写前に「ポン・ジュノの作品なんですが…」と説明に詰まったスタッフの様子を覚えている。振れ幅が大きく、文字通りジャンルにとらわれない人なのだ。

公開中の「パラサイト 半地下の家族」は格差問題に斬り込みながら、笑いあり、脅かしあり、そして感動あり…。1つのジャンルにはくくれないが、まぎれもないエンタメ作品。予断を持たずにジュノ魔術に身をゆだねるのが正解だ。

半地下住宅に住むキム一家は4人全員が失業中。父親は事業に何度も失敗、元ハンマー投げ選手の母親はそんな夫につらく当たる。長男は大学受験に落ち続け、美大を目指す妹には予備校に通うお金もない。だが、それぞれそれなりにやる気があり、置かれた環境の割には元気がいい。

対照的にIT企業社長のパク一家は高台の大邸宅に住んでいる。キム一家の長男がその長女の家庭教師となったことから交わることはないはずだった両家に関係が生まれ、半地下家族が邸宅に出入りすることになって…。

語りたくなることがあまりにも多い作品だが、「観客にはハラハラしながら物語の展開を体験して欲しい」というジュノ監督の思いを尊重して、ストーリーにはこれ以上触れない。

ジュノ作品らしく、今回も淡色の背景に薄明かりを当て、登場人物の表情がしっかりと浮かび上がる。どんなにジャンルをまたがろうと、この安定した演出があるから、落ち着いて作品に向かい合えるのだと改めて思う。半地下の家はアングルを工夫してそれなりに楽しい居住空間に見せる。モダンな大邸宅の調度品にはストーリー展開に合わせたバランスと美しさに気配りが行き届いている。

そしてキャストには一線級が配されている。キム夫妻はソン・ガンホと「わたしたち」(16年)のチャン・へジン、その子どもに「ゴールデンスランバー」(18年)のチェ・ウシクと「プロミス」(16年)のパク・ソダムと主役の4人は芸達者ぞろい。そしてパク夫妻にふんするイ・ソンギュンとチェ・ヨジョンには余裕と気品が漂う。

132分がウソのようにあっという間で、ハラハラした後にさまざまな思いが心に残る。今回もエンタメと社会風刺がほどよいバランスに調理された「おいしい作品」だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「パラサイト 半地下の家族」の1場面 (C)2019CJENMCORPORATION,BARUNSONE&AALLRIGHTSRESERVED
「パラサイト 半地下の家族」の1場面 (C)2019CJENMCORPORATION,BARUNSONE&AALLRIGHTSRESERVED