序盤から緊張を強いられる。夕食をともにする5人の内「二重スパイ」は誰なのか。セリフの端々に耳をそばだて、表情の変化から目が離せない。
「セックスと嘘とビデオテープ」(89年)を皮切りに、多様なジャンルの作品を独特な「仕掛け」で魅せてきたスティーヴン・ソダーバーグ監督が、英国の情報機関(国歌サイバー・セキュリティー・センター=NCSC)を舞台に謎解きを展開する。「ブラックバッグ」(26日公開)には全編ヒリヒリさせられる。
NCSCの諜報(ちょうほう)員ジョージ(マイケル・ファスベンダー)がひそかにボスに呼び出される。ジョージはロンドンの裏通りにある会員制クラブに入り、迷路のように個室が点在する中で、密命を伝えるボスに目配せすると、裏口から出て人通りのない場所で2人きりとなる。ジョージの視界だけをとらえた移動カメラが極秘任務を印象づける。
どこかで見たようなシーンでありながら、ソダーバーク監督流のカメラワークに新味がある。
指令は世界に打撃を与えうるプログラム「セヴェルス」を盗んだ内部の裏切り者を見つけ出すこと。容疑者は諜報員のフレディ(トム・バーク)とジミー(レゲ=ジャン・ペイジ)、情報分析官のクラリサ(マリサ・アベラ)局内カウンセラーのゾーイ(ナオミ・ハリス)、そしてジョージの妻で諜報員のキャスリン(ケイト・ブランシェット)の5人だ。
フレディとクラリサ、ジミーとゾーイも恋人関係で、親しい3カップルの中に裏切り者がいるという設定だ。冒頭で触れた会食を皮切りにジョージの犯人捜しが始まる。1週間という限られた時間の中で、それぞれに疑惑が見え隠れする。
諜報員、分析官、カウンセラー…ジョージは密命を隠したまま、それぞれのスキルやアクセス権を交互に利用しながら真相に迫っていく。彼の密命を知らない直属の上官アーサー(ピアーズ・ブロスナン)の目も光っている。ワナとウソがまぶされた「プロ」同士のスキの無い会話にハラハラさせられる。
ジョージ宅の内装の細部にはこじゃれたソーダーバーク印を感じる。対照的にNCSC内部はすっきりと無駄なくハイテク機器がそろう。セットの端々にこだわりを感じる。オフィス内でセキュリティーのスキを突き、厳格な上官の目を盗んで、ジョージとともに分析官クラリスがドローン映像を操るシーンは特にスリリングだ。
終盤には「うそ発見器」も登場。ベタな「スパイ道具」もすっかりソフィスティケートされている。脚本は「ミッション:インポッシブル」のデヴィッド・コープ。ソーダーバーグ監督とは3度目のタッグとなる。上映時間94分の密度はあまりにも濃い。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)
「セックスと嘘とビデオテープ」の嘘は、口ヘンに虚の旧字体




