「声がこもっている気がする」…トークレッスンの生徒さんからよくいただくご相談のうちのひとつです。元々の性格や、置かれている環境、そして国民性など、色々なことから自分の声は成り立っています。そして、声の出し方は改善できます。声と脳の専門家・山崎広子先生監修、トーク編第50回「こもっている声改善法」。

五戸美樹(2019年7月)
五戸美樹(2019年7月)

■こもっている声の種類■

一概に“こもっている感じ”といっても、様々な声があります。

・極端に声量が小さい場合

・くぐもった感じで声が前に出づらい場合

・こもっている感じにプラスして若干の吃音がある場合

・プライベートでは問題ないが人前に立つとこもってしまう場合

など。

■声を作っているもの■

声は、自分に関わる全てのものから影響を受けます。身長・体形・性別・年齢といった生体的なものから、元々の性格・育った環境・今置かれている環境など、目に見えない内面的なものも声に大きく関係します。

そして人は、自分の声を出しながら、聞いて、調整しています。専門的にはそれを「聴覚フィードバック」といいます。

例えば、「目立ちたくない」などと思っていると、声を出しながら、無意識に聴覚フィードバックで調整し、本来持っている豊かな声を抑え、声がどんどんこもっていくという現象、日本人に多く、悩んでいる方も多くいらっしゃいます。

■こもり声を作る性格■

性格としては、例えば緊張しやすい方。人前で心臓が張り裂けそうなくらい緊張してしまったり、プライベートでも対面で話すだけで緊張してしまう方は、無意識に「目立たないように」「嫌われないように」と考えることが影響します。

また、考えすぎる方。「こう言ったら、こう思われてしまうかもしれない」など、ある程度想定することは、無神経な会話にならない利点がありますが、あまりにマイナス思考で想像してしまうと、「本当はタピオカが好きだけど、私なんかが流行りに乗っていると思われたら、バカで卑しいと思われるかもしれない」などと、ありえない状況まで考えてしまい、自分の気持ちを伝えられなくなることで、声はこもっていきます。

そして、真面目過ぎる方、我慢強い方、人と壁を作ってしまいがちな方、自分なんて存在している意味がないと自己否定してしまう方、見た目へのコンプレックスが強い方、子供の頃虐待を受けた方、現在進行形でモラハラを受けている方など“無意識の抑圧”がある方に、声のこもりは発生する現象です。

声がこもっているのは、出し方の問題なので、必ず改善できます。

J-WAVE社屋にて
J-WAVE社屋にて

■改善方法その1:録音■

まず始めにすることは、自分の声の録音を聞くことです。「録音するぞ!」と意気込んでしまうと、緊張感が出てしまうので、プライベートで何気なく話している時に、スマホの録音機能を回しっぱなしにしてみてください。自分の声を客観的に聞き、どんな声なのか自覚をすることがスタートです。

できれば、何度も録音し、聞くことを繰り返してください。もし、その中に「この声はこもってないかも」と思う声があったら、その部分をさらに繰り返し聞いてください。そうすると、こもっていない時の声を徐々に再現できるようになります。

■改善方法その2:ぶつける■

テクニックとしては、声を前に出す練習法があります。声を出す時は息を吐きますが、本来は吐く息を、半分くらい飲み込んでしまうと、声はこもってしまいます。声を前にぶつけるイメージで「ぶつける!」と言ってみてください。

できればそれも録音して、こもっている時の声と比べてみてください。「ぶつける!」のイメージのまま、「こんにちは!」「そうですね!」「わかりました!」など、普段の会話で使う言葉をつなげていくと、イメージの定着が図れます。

■こもりと滑舌は違う■

声がこもっている方で、滑舌が悪いと勘違いしている方もよくいるのですが、「こもっている」と「滑舌が悪い」は、全く別の現象です。滑舌が悪い方は、子音の舌の位置が間違っていたり、口を開けすぎていることなどが原因です。口を大きく開けると滑舌は悪くなります。

声のこもっている方が、口の開きが鈍いためだと誤解して、口を大きく開けるようにしてしまい、滑舌まで悪くなる、という事例もありますし、残念ながら正しく指導できていないトレーナーもいます。

文化放送『走れ!歌謡曲』スタジオにて
文化放送『走れ!歌謡曲』スタジオにて

■性格に影響した事例■

良い事例としては、声と向き合い、努力して、こもりがなくなったことで、性格に影響し、前向きになり、無理なくプラス思考になった方もいます。自分の考えを伝えられるようになり、我慢しすぎることがなくなり、生きるのが楽になったそうです。逆に、性格が変わったことで、自然と声のこもりがなくなった事例もあります。

自分はどうなりたいのか、未来志向で考えたいものですね。

【五戸美樹】(ニッカンスポーツ・コム芸能コラム「第74回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)

【参考図書】山崎広子先生の著書『相手に届き、自分を変える 心を動かす「声」になる』(大和書房)、『8割の人は自分の声が嫌い 心に届く声、伝わる声』(角川新書)、『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)、『人生を変える「声」の力』(NHK出版)。 

◆山崎広子(やまざき・ひろこ)国立音楽大学卒業後、複数の大学で音声学と心理学を学ぶ。音が人間の心身に与える影響を、認知心理学、聴覚心理学の分野から研究。音声の分析は3万例以上におよぶ。また音楽・音声ジャーナリストとして音の現場を取材し、音楽誌や教材等への執筆多数。「音・人・心 研究所」創設理事。NHKラジオで講座を担当したほか、講演等で音と声の素晴らしさを伝え続けている。