50年前に起きたシャロン・テート殺人事件はハリウッド映画史の悲劇だ。カルト集団の信奉者によってロマン・ポランスキー監督夫人が自宅で惨殺された。

当時6歳のクエンティン・タランティーノ監督は記憶に深く刻んだに違いない。映画界への憧れを抱いていた時代を描くこの作品で、ヤマ場の事件は悲劇から監督流のポジティブな活劇に書き換えられている。

隣家に住む落ち目の俳優とそのスタントマンの主演コンビは、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの初顔合わせだ。匂うようなオーラの混じり合いの背景に事件への不気味な予兆が見え隠れする。

「身分違い」の友情、敵役で食いつなぐ「下り坂俳優」のあるある感に、時代に取り残されたオールドタイプの映画人への監督の愛情がにじむ。スティーヴ・マックイーンやブルース・リーのそっくりさんも登場。時代再現に湯水のような金が使われている印象があるが、エピソードそれぞれが終盤の事件への布石になっていて実は無駄がない。

テート役のマーゴット・ロビーやマカロニ・ウエスタン製作者役のアル・パチーノも絡み、ひと場面ごとにため息が出た。【相原斎】

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