夜の家、階段のきしみ、遠くで何かが落ちる音…。ホラーのようでホラーではない。だけど怖い。第78回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、米アカデミー賞のドイツ代表にも選ばれた。カンヌが見いだした新鋭マーシャ・シリンスキ監督が、言葉では言い表せない「ざわつき」を観客の心に刻みつける。

1910年代、40年代、80年代、そして現代。ドイツの一地方に建つ一軒家とその周辺を舞台に、異なる時代を生きる4人の少女を描く。時代も家族も違うのに、彼女たちは同じような気配に出会い、同じ問いに行き当たる。「生きているか、死んでいるか、どこでわかるの?」。断片が100年をまたいで呼応し、観客は足元の現実が揺らいでいくのを感じる。

突然差し込まれるカット、耳障りなノイズや気配のような音。時間が前後する場面転換が不意に挿入され、理解が追いつく前に、不安だけが先に立つ。音の設計も巧みだ。「落ちる」気配の音が画面外からじわりと入り込み、何も起きていない場面にさえ不気味さが漂う。難解な作品だが、見終えた後も胸のざわつきが消えない。【松浦隆司】

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