未知との出会いが、心を躍らせる。18年には「あゝ、荒野 前編」で「日本アカデミー賞」最優秀主演男優賞に輝くなど、高い演技力が評価される俳優菅田将暉(33)。19日に公開された、映画「黒牢城(こくろうじょう)」(黒沢清監督)では牢屋にとらわれた危険な天才軍師・黒田官兵衛を熱演した。30代になり、家庭を持ちながら、自身の演技や経験に向き合う菅田の言葉の端から実直な人柄が見えた。【加藤理沙】
★「脳みそフル回転」
「このミステリーがすごい!」22年版国内編第1位など史上初の4大ミステリーランキングを制覇した、米澤穂信氏の同名原作が待望の映画化。巨匠・黒沢監督が自身初の時代劇に挑んだ。「時代劇、ミステリー、さらに会話劇。黒沢さんではない要素が3つくらい入っていて驚き、ワクワク感がありました」とオファー当時の心境を振り返った。監督自ら執筆した脚本にも引かれた。
「いわゆる時代劇のチャンバラ、闘争心、血のにおいなどではない駆け引き、言葉の面白さがあって。台本を一読するだけではわからないシーンの意図がたくさん書かれていて、本当におもしろかったです」
映画「黒牢城」は、織田信長への謀反を起こした、本木雅弘(60)演じる荒木村重が籠城(ろうじょう)する有岡城が舞台。城内での怪事件の真相を求め、官兵衛が知略を巡らせる。歴史と本格ミステリーが融合した注目作だ。
「史実ではワイルドに書かれることもある中、頭しか使えない。1つの映画でこんなに動かない役もないですし、本当に脳みそフル回転。言葉に黒沢さんが奇妙な動きをつけて下さるのが楽しかったですね」
放送中のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」では竹中半兵衛役。図らずも、戦国時代を代表する2人の名軍師を続けて演じた。「両兵衛を同じ時代に…しかも、ほぼ同時期で。意味が分からなかった」と笑いつつ、時代劇の面白さ、それぞれの軍師像を語った。
「現代劇と違う時代劇の面白さは『人が死ぬことの距離の近さ』。その価値観や文化が今と違う。誰を生かし、どこを斬り、何を目指すか。それぞれの『勝つ』が違う。官兵衛は属す組織自体が勝つこと、黒田家自体の存続、自身がのし上がる野心がある人。侍魂みたいな武士感がありつつ、思考を諦めないひと。そして、武士的な部分を抜いた人を半兵衛と捉えて演じていました。たけだけしくも知性を忘れないことが両立する上で難しかったですね」
劇中は、本木演じる村重との会話劇が主な出演シーン。事件解明にたどり着かない村重は官兵衛の導きにより真相に近づいていく。
「目の前の本木さんにどれだけアジャストしていくかという戦い。常に本木さんをじっと見ていました」
★黒沢清監督の絶妙さ
黒沢組は「Cloud クラウド」以来2年ぶり。「現場に行くこと自体が楽しい」と声を弾ませた。他に代えがたい魅力がある。
「やぼなことをされない。それに尽きます。芸術としてかっこよく、気持ち良く一つのパーツにしてくれる。参加しないと分からない気持ちよさですかね」
監督ならではの演出手法をどう捉えたのか。
「こんなに会話する黒沢映画はない。過去作は言葉を発さずとも動く画面の中の奇妙さが面白い。でも今回はずっとしゃべる。耳なじみがなくこちらも言い慣れていない言葉にどんな動きをつけるのか。役者の動線が監督の台本には書いていて、それが新鮮で、この作品の武器。そして総合芸術も強み」
第79回カンヌ国際映画祭カンヌ・プレミア部門に正式出品された。世界初上映となった現地ではスタンディングオベーション。「上品さもあり、ドレスが似合う場所。不思議な気持ちよさ」とほほ笑んだ。ここでも監督のすごさを実感した。
「会場での監督のスターぶりがすごいんですよ。愛されていて、作ったものがリスペクトされる。それだけの現場なんです」
同作の魅力を尋ねると「カンヌで納得したことがある」という。
「ワールドスタンダードな表現で日本人が時代劇を撮っている希有(けう)さです。極端な話、黒沢さんの演出は言葉がなくても伝わる動きをつける。ひざまずいている方が地位が下、立っている方が上というような、子どももわかる絵の動きがある。そして、背景に広がる国宝や重要文化財指定の建造物。日本映画のスタンダードな美しさが世界中で伝わるように撮影し、その上でミステリー要素がポップさになり、ユーモアが広がる。絶妙なラインだと思います」
★今後は「物作りも」
08年に芸能界入り、20代は出演作が絶えなかった。そして、フジテレビ系「ミステリと言う勿れ」で初の月9主演を飾った直後、一度足を止めた。
「あの時期に休んで良かったです。ケガをしたら、かさぶたになって治るまで待たないといけないじゃないですか。全開でできるのは次は50歳とかですかね。家庭がありますから」
21年11月、小松菜奈と結婚。24年3月には第1子誕生を報告。家庭と仕事のバランスも変化した。
「20代はただ自分のことを一生懸命やった時期でしたが、今はこの約15年の出会いの延長線上で、『これだけは』という作品だけで結構いっぱいな日々です」
年を重ね、役柄の幅が広がった。4月公開の映画「人はなぜラブレターを書くのか」(石井裕也監督)ではボクサー役に挑戦した。
「ボクサーも(黒牢城の)官兵衛も、どちらも小さな命に対して支える立場の感覚が必要。20代ではできなかった役柄だと思います」
これまで教師、医師、芸人、不良少年など多彩な人物像を体現した。今は俳優として30代ならではの悩みに直面している。
「家庭を持った普通の男の役なんて皆さん見たがらない。需要があればやりますけど(笑い)。役者は20代後半から30代頭は役がないと言われる。普通の生活が始まるからでしょうね。先輩たちの悩みとして聞いていました。だから特殊な役をみんなやるんですよ」
今後挑戦したい役を尋ねると「大がかりなものがいい」と即答。「AIでパッとCGを作れる時代に、プロが本気を出すロマンは他じゃ経験できない。宇宙でビームとか出したいなぁ」とジョークも交えた。
30代、40代にどんな展望をどう描いているのか。
「自分試しも含め、役者業だけでない物作りもしたい。役者を見ていると、やはり人として面白い。企画を自分で出す人もいるので、そういうこともやらなきゃ。自分は何をやりたいか興味があります」
守るものが増えた今も、未知への好奇心を原動力に歩み続ける。
▼黒沢清監督(70)
菅田将暉はどんな作品にもするりと溶け込むバイプレイヤーの資質と、唯一無二の個性で作品のルックスを決定づけるスターの資質の両方を兼ね備えた奇跡のような俳優です。「黒牢城」には大スター本木雅弘との激しい演技バトルがふんだんに設けられていますが、ある時は主役の輝きの陰でつつましく支え、またある時は自らが主役であるかのように輝く、その変幻自在ぶりにあらためて舌を巻きました。日本映画に菅田将暉がいて本当によかったと思います。
◆菅田将暉(すだ・まさき)
1993年(平5)2月21日、大阪府生まれ。08年「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」ファイナリストに選出され、芸能界入り。09年テレビ朝日系「仮面ライダーW」で俳優デビュー。14年「共喰い」で日本アカデミー賞新人俳優賞。17年にソロ歌手デビューし、19年「まちがいさがし」でNHK紅白歌合戦に初出場。主な主演作に映画「花束みたいな恋をした」「銀河鉄道の父」、ドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」「コントが始まる」など。176センチ。血液型A。









