TBS系新春ドラマ「あしたの家族」について語る石井ふく子プロデューサー
TBS系新春ドラマ「あしたの家族」について語る石井ふく子プロデューサー

ドラマ「ありがとう」「渡る世間は鬼ばかり」などで知られる石井ふく子プロデューサー(93)が、TBS新春ドラマ特別企画「あしたの家族」(5日午後9時)で、家族の新作を完成させた。昭和、平成、令和と、3つの時代でホームドラマを手掛けてきた石井さんは「家族はサスペンス。だからこそ会話を」。令和の家族への思いを聞いた。

◇   ◇   ◇

-作品は、ワケあって二世帯住宅で暮らす3人家族(宮崎あおい、松坂慶子、松重豊)と、娘の婚約者(永山瑛太)の笑って泣ける人間ドラマ。瑛太さんが、会社では松重さんの上司という、今どきの職場風景もポイントになります。

石井 会社での力関係も微妙で、二世帯住宅というのも微妙(笑い)。おやじさんとしては「二世帯住宅で暮らすのが夢」とは言えないし、瑛太くん側も接し方におろおろ。宮崎あおいちゃんも、婚約者にある事情を言えずにいる。遠慮の中のサスペンス(笑い)。家族はサスペンスなんです。

-50年以上、日本の家族を描いてきた石井さんの実感なのですね。

石井 近い存在だけに何が起こるか分からない。今、いろんな恐ろしいことがあるじゃないですか。親を殺す、子を殺す。信じられないです。やはりスマホの登場は大きい。それぞれがスマホをやっていて、話すことを避けてしまう。話せば大したことなかったってことはたくさんあるのに。この時代に家族のドラマを作っていくことは本当に難しいですが、やっぱり目を見て会話をすることは大事だということを伝えたいんです。

-ホームドラマ自体が減ってしまっていて。

石井 難しいんですよ。刺激的な殺人事件が起こったりしないから。事件発生→主人公が動く→犯人逮捕→エンディングという型もない。心の問題だから犯人もいないし、だいたい未解決(笑い)。ごく普通の日常でグッとさせるには説得力のある脚本が必要。作家側も、ホームドラマでは企画が通らない、仕事がないと思っているんですね。

TBS新春ドラマ特別企画「あしたの家族」左上から時計まわりで松重豊、松坂慶子、永山瑛太、宮崎あおい(C)TBS
TBS新春ドラマ特別企画「あしたの家族」左上から時計まわりで松重豊、松坂慶子、永山瑛太、宮崎あおい(C)TBS

-この作品の企画はすぐに通ったのですか。

石井 すぐ通りました(笑い)。チーフADをやっている人から落語脚本の入選作を紹介されて、面白かったので作家(浪江裕史氏)とお会いしたんです。ホームドラマを書く人が少なくなっているので、この脚本に付き合いたいなと。やっているうちに欲が出て、9回も直した(笑い)。作家もよく9回も直したなあと。

-普通のサラリーマン家庭で起こった一大事と、今どきの会社あるあるが絶妙にリンクして面白いんですよね。普通の勤め人や専業主婦を魅力的に描く作品が減っていると感じていたので、新鮮でした。

石井 世の中にいちばん多いのはサラリーマン。その設定の中でいろんなことができる。機械化されたオフィスでの世代間のギャップもそうですし、部下だった人間がある日突然上司に、みたいな今どきの展開もある。おやじさんたちは恥をかきながらも何とか頑張っていて、若い人は力になってあげたいけど「失礼かも」という遠慮がある。普通の会社組織でないと描けないことですよね。

TBS新春ドラマ特別企画「あしたの家族」左から松重豊、宮崎あおい、永山瑛太、松坂慶子(C)TBS
TBS新春ドラマ特別企画「あしたの家族」左から松重豊、宮崎あおい、永山瑛太、松坂慶子(C)TBS

-この作品で、瑛太さんが本名の永山瑛太に改名することを決めたのも話題です。普通のサラリーマンを魅力的に演じていて。

石井 こんなに普通のサラリーマン役を演じたのは初めてだそうです。これから俳優を続けていく上で「瑛太」という名前は子どもっぽいと思っていたようで、この作品に手応えがあったのだと思います。ご一緒するのは初めてでしたが、まじめで素直な俳優さん。思っていたより明るい人でびっくりしました(笑い)。

-令和のホームドラマを、どういう人に見てもらいたいですか。

石井 特に若い人に見ていただきたいですね。時代は変わっても、家族というのはしょうがない、あるものだから。私は家族いませんから。きょうだいもいませんし。だからすごくあこがれもあるんですよ。「こうなったらいいんじゃないか」って。あと、どれだけ大切に育ててきたかが伝わる座敷でのシーンのような、日本のいいしきたりや作法も私のドラマではしっかり描写しているので、そういうところも伝わってほしい。

TBS系新春ドラマ「あしたの家族」について語る石井ふく子プロデューサー
TBS系新春ドラマ「あしたの家族」について語る石井ふく子プロデューサー

-明るいテイストの作品なので、令和最初の正月にはぴったりですね。

石井 出演者が本当の家族みたいに、愛情をもって取り組んでくれました。新年に、ご自身の家族に思いを寄せながらご覧いただけるとうれしいです。


◆石井ふく子(いしい・ふくこ)1926年(大15)9月1日、東京都生まれ。父は俳優伊志井寛、母は小唄家元三升延。東京女子経済専門学校卒。61年、TBS入社。プロデュース作品に「肝っ玉かあさん」、最高視聴率56・3%を記録した「ありがとう」シリーズ、「渡る世間は鬼ばかり」など。

◆「あしたの家族」 4年前、結婚式当日に新郎に逃げられた過去を持つ小野寺理沙(宮崎あおい)は、父(松重豊)が建てた二世帯住宅に母(松坂慶子)と家族3人で暮らしている。恋人の兵頭幸太郎(永山瑛太)にプロポーズされ両親に紹介するが、父はびっくり。幸太郎は、職場の上司だった。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)