史上初の「芸人芥川賞作家」が誕生した。第153回芥川賞・直木賞の選考会が16日、東京・築地の料亭新喜楽で行われ、お笑いコンビ、ピースの又吉直樹(35)の本格小説デビュー作「火花」が受賞した。羽田圭介さん(29)の「スクラップ・アンド・ビルド」も受賞した。直木賞は、東山彰良さん(46)の「流」に決まった。

 2000冊以上を読破した「読書家芸人」又吉が、純文学界の頂点へ昇り始めた。5月に逃した三島由紀夫賞のリベンジも果たした。報道陣約300人が待ち受ける東京・内幸町の帝国ホテルの会見場では、同時受賞の羽田氏、直木賞の東山氏と写真撮影。3人の中で一番緊張した表情で、「笑顔を見せて」「ポーズを作って」の声に、ぎこちなく応じた。金びょうぶの前に座ると、「いや~、びっくりした。とにかくうれしいです。ウソみたいな感じ。似合ってますかね? これだけ緊張することはない」と真顔で言った。

 太宰治が、切望しながら取れなかった芥川賞を受賞した感想については、「時代が違う。いつもテレビで『太宰治が好き』と勝手に言ってもうて申し訳ない。今月は2回か3回、墓参りしました」。大阪から上京して最初に住んだ古いアパートは、かつて太宰が住んでいた地にあった偶然…いつまでも続く敬愛の念から、恐縮しきりだった。

 子供のころから読書と、ものを書くことが好きだった。18歳で頭に浮かんだ「壮大な物語」を原稿用紙に書いたが、10枚で力尽きた。だが、その日から世の小説に込められた技法や作家の創意を感じ取れるようになった。今回、小説執筆の誘いを受けて、昨年9月から12月までの3カ月で400字詰め原稿用紙300枚。執筆は真夜中で、喫茶店、カフェ、自宅、執筆用のアパートを借りて、パソコンに向かった。芸人の仕事は減らさなかった。「芸人として100でやる。それ以外の時間で小説を書いてきた姿勢は崩さない。それが、どっちにとってもいい。お笑いで出来なくて残っていることが、文章を書く第1歩になっています」。

 「火花」は、今年1月7日発売の文芸誌「文学界」2月号(文芸春秋社)に掲載。通常1万部程度が、1933年(昭8)の創刊以来初の増刷となり、最終的に同誌史上最高の4万部の発行となった。3月11日には単行本として発売され、今年上半期ベストセラーランキングの2位(日本出版販売調べ)になり、この日までに13刷69万部となった。芸能界からの芥川賞は3人目。ミュージシャン辻仁成の「海峡の光」(96年)、同じくミュージシャン町田康の「きれぎれ」(00年)で、お笑い芸人では初。デビュー作で受賞の名誉も重なったが、又吉は謙虚に「好き嫌いがあるから、僕のを読んで小説読むのをやめようと思わないで。100冊読めば、絶対本が好きになりますから」と強調した。【小谷野俊哉】

 ◆又吉直樹(またよし・なおき)1980年(昭55)6月2日、大阪府生まれ。北陽高時代はサッカー部で高校総体出場。99年4月NSC東京5期生。00年にコンビの線香花火でデビューしたが、03年に解散。綾部祐二とピースを結成。10年キングオブコント準優勝、M-1グランプリ4位。11年よしもとオシャレ芸人ランク1位。好きな作家は太宰治、芥川龍之介、京極夏彦ら。文学イベント「太宰治ナイト」「松尾芭蕉ナイト」などを主催。これまで俳句集、短編小説など8作品を出版。164センチ、58キロ。血液型B。

 ◆「火花」 静岡・熱海の花火大会での営業漫才で出会った売れないお笑い芸人の徳永と先輩芸人の神谷の交友を描いている。神谷の芸風にひかれた徳永は、弟子入りを申し出て、神谷から「俺の伝記を書け」と命じられる。その後、徳永は大阪でコンビを組み、少しずつ売れていくも、相方の結婚を機に解散。神谷は上京するも、借金ばかりが増え、行方不明になる。その2人が再会を果たし、再起を誓う。

 ◆芥川賞 「文芸春秋」を創刊した菊池寛が、芥川龍之介と直木三十五を記念して1935年に、芥川賞と直木賞を創設。芥川賞は、純文学の新進作家に贈られる。第1回受賞者は石川達三氏。正賞は懐中時計、副賞は100万円。直木賞は大衆文学の作家が対象。主催は日本文学振興会で、選考委員会は年2回開かれる。