1月25日に死去した藤村俊二さんの長男・藤村亜実さんは1日夜、文書で「お別れのあいさつ」を発表した。

 生前、父の周りには、たくさんの友人やファンの方々が集まってくださいました。つかみどころがないところが好き、と言ってくださった方も多くいたように思います。父もうれしかったと思います。本当にありがとうございました。

 療養中は、危険な時期がありましたが何度も乗り越えてくれました。父を良く知る方々は、その様子を見て驚いていました。誰も頑張る人というイメージを持っていなかったからです。

 実のことを言うと、息子の自分にとっても父はつかみどころがなく、また頑張る人でもなく、その自由で独特な生き方が子どものころからずっと不思議でした。その秘密がようやく分かるようになったのは、父の病室に付き添いながら、人生を振り返って眺めていた、この約1年のことです。

 不思議なことに、療養中の父は決して頑張っているようには見えませんでした。苦痛や不安が多かったと思いますが、いつも穏やかな表情をしていました。いったいどうやっているのかと思いましたが、ある日、父が苦しみや不安にとらわれず、すべてを受け入れて「今」を生きていることに気付きました。父の人生を振り返ってみても、何も不安に思うことなく、いつもその「瞬間」を大事に生きていたように思います。

 父は、欲や執着もあまりありませんでした。父の残した手書きメモにこういうものがありました。「この世でいちばん愉快なことは、何かを持っていることではなく、何かを経験できる瞬間です」。

 父は、そうやって「今」を生きる方が自由で幸せだと知っていたのだと思います。その心が、あのひょうひょうとした生き方の秘密だったのです。すべてを受け入れ、何にもとらわれず、過去や未来から切り離された「永遠の存在」という時に生きる心は自由で幸せです。そのことを最後に父から学ばせてもらった自分たちも、これからの人生の「今」を大事に生きていきたいと思います。

 生前は、たくさんの「今」を親父と共に過ごしていただき、本当にありがとうございました。

   長男 藤村亜実