公開中の映画「パンク侍、斬られて候」は、タイトルから想像する以上に「ぶっ飛んだ」作品だ。

 原作・町田康、脚本・宮藤官九郎、監督・石井岳龍と型破りの3氏の三段重ねで、登場人物は突然うなったり、踊ったり、ずっとサルのままだったり、予測不能の不思議世界を作りだしている。

 先日、出演者が勢ぞろいした舞台あいさつが行われ、シュールな世界の裏側が生身の声で明かされた。

 主演の綾野剛(36)は「浅野(忠信=44)さんがいきなりタックルしてきたときは本当に驚きましたね。全然脚本と違う動きですから。えーっと思っていたら、監督はOKを出している。びっくりした顔や笑った顔は素のままで使われちゃいました」と振り返った。

 脚本では浅野の役にはセリフが無く、すべてはボディランゲージのはずだったが、劇中ではアドリブを連発。あいさつでは観客に「僕の心の声が聞こえましたか?」とうそぶいた。

 石井作品の大胆演出になじんだベテランたちのやりたい放題に東出昌大(30)は「現場はカオスでした。コメディー部分で僕の演技には誰も笑っていない。本当にこれでいいのか、と不安が募るばかりでした」という。だが、村上淳(44)が「1人大河(ドラマ)」と評する東出の演技が見事なまでに浮いて、「1番笑えた」(若葉竜也=29)のも確かで、無意識のうちに石井演出にはまってしまったようだ。

 紅一点の北川景子(31)にも特別扱いは無かったようだ。「求められたのは腹踊りですから。ダンスを習ったことも無いので、ひたすらみんなを誘える腹踊りとはどんなものなのか、そればかり考えていました」と明かした。そんな北川もどんどん不思議世界に引き込まれていったようで、綾野が「北川さんのあんな高笑いは見たことも聞いたこともない」という熱演を見せた。

 石井監督の「狂い咲きサンダーロード」が、ブルーリボン賞(東京映画記者会主催)に当時あったスタッフ賞を獲得したのは37年前。めまぐるしいカット割りや、工場群の夜景が斬新だった。そんな感覚を保つ一方で、俳優のポテンシャルを引き出す年齢ならではのおうようさが加わって今回の異色作ができあがったのだろう。

 綾野は「どういう風に見てもらったんだろう」と不安をあらわにしながら「役者として生まれ直した気持ちです」と達成感も口にした。最近は「とりあえず顔見せ」的な初日あいさつも少なくないが、今回は本音トークに終始。笑いも実もあるイベントでもあった。