テレビ朝日開局60周年記念5夜連続ドラマスペシャル「白い巨塔」(22~26日まで、午後9時)の対談企画第3回は、名匠・鶴橋康夫監督(79)と主人公・財前五郎の愛人、花森ケイ子を演じた沢尻エリカ(33)。

顔合わせは2度目。2020年NHK大河ドラマ「麒麟がくる」への出演を控える沢尻は、演技者としての未来を見据えた。【遠藤尚子】

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2人は2012年、TBS系特別ドラマ「悪女について」で初めて仕事をした。

鶴橋 あの時は20歳ちょっとだった?

沢尻 24ですね。

鶴橋 想像力で役柄を作ることができるのね。23、24って言っても、堂々としていてね。その時は若い女優さんだって思わなかったね。あまりにも吸収力が良くて。今回はほとんど(の出演者が)初めての人だったから、この子を頼りにしてね。撮影現場に行ったら、まず沢尻選手を探すと(笑い)。

沢尻 ふふふ。

鶴橋 今もこう見ているとね、かわいいねえって。

沢尻 とんでもないです(笑い)。監督のキャラクターとこのトーンで、現場がすごい和むんですよ。「おお~オッケ~イ」みたいな。最初は緊張したり、恥ずかしかったりするじゃないですか。でもそれを吹き飛ばして、精神的なところから役作りさせてもらったのかなと思います。

沢尻は、岡田准一(38)演じる外科医・財前の愛人、ケイ子を演じた。

沢尻 最初はすごく緊張していたんです。昔の作品のイメージを引きずっていて。でもこれは新しいものだから、その概念をいったん捨てて。岡田さんも初日から「財前」で、頼もしかったんですね。岡田さんについて行けば大丈夫だと。

鶴橋 ほーっ、良かった(笑い)。監督って臆病だから、抱きついてチューしてくれ、それで(抱きかかえて)回ってくれくらいまでは言えるけど、舌まで入れてくれ、とか何とかって言えない。でも2人とも瞬間的にそれが分かるんだ、岡田さんも沢尻さんも。ここからもっともっと良くなっていく。時の花なんだね。

沢尻は20年NHK大河に出演。念願がかなった。

沢尻 やりたかったですね。時代劇が一番好きです。セットも、衣装も、頭(髪形)も、全てその時代にタイムスリップする。完全別物だからそこに入れるっていうか、芝居を本当にしているなっていう感覚がある。着物を着て立っているだけでも絵になるし、そういうの好きなんです。

鶴橋 時代劇を早く用意しておけば良かった(笑い)。「白い巨塔」でも、沢尻さんって不思議と男を立たせる芝居をやるんだよね。どこか天性のもの。

愛人だが、冷静に財前を見つめ、時に突き放す。

鶴橋 対等なんだね。君自身もどこかそういうところがあるだろう?

沢尻 そうですね。何か違うって思った瞬間に、女ってすごいですよね。切り替えが本当に早い。それまでは支えようとか一緒にいようとかあるんだけど、何か違うと思った瞬間に「ダメだ、もういられない」って思う。そこはすごい共感できたところで。

鶴橋 男はダメなの。いつまでたってもズルズルと(笑い)。まだ若いんだから、これからね。技術なんて身に付けなくてもいいなあ。いろんなことを考える力があるから、自分の想像力を育てて作品を作り上げていったらいいと思うね。

これから、沢尻エリカはどんな女優を目指すのか。

沢尻 自分の枠を決めず常にフラットな状態でいて、多く吸収していろんなものを見たいなと思っています。本当に芝居が好きで。うまいとか下手とか単純なことじゃないんですけど、もっとやりたいとか、好きな気持ちを常に持ち続ける。それは自分のいいところかなと思っているので。この気持ちをずっと忘れずに、楽しくやっていきたい。

鶴橋 こっちはね、この新鮮野菜みたいな人をどう料理するか。「これだ!」なんて言わないで、「これもある。これもあるけど、どれでいってみる?」っていうのが、僕らの仕事のような気がする。

沢尻 それが面白い。芝居っていろんな人がいて正解がない。100人いたら100人人格も違うし、好みも違う。これって決め付けるんじゃなく、幅を増やして面白み、楽しみを広げていきたいなと思います。

鶴橋 それでいこう!

◆沢尻(さわじり)エリカ 1986年(昭61)4月8日、東京都生まれ。父は日本人で母はフランス人。03年フジテレビ系「ホットマン」で連ドラ初出演。05年映画「パッチギ!」で新人賞や女優賞を多数獲得。ドラマは05年「1リットルの涙」、14年「ファースト・クラス」、映画は12年「へルタースケルター」、18年「猫は抱くもの」などで主演。9月公開の映画「人間失格」に出演。

◆鶴橋康夫(つるはし・やすお)1940年(昭15)1月15日、新潟県生まれ。中大法学部卒業後、62年読売テレビ入社。一貫してドラマ制作畑を歩む。81年芸術選奨文部大臣新人賞受賞。90年「愛の世界」など、数多くの社会派ドラマの演出を手掛ける。退社後の07年「愛の流刑地」で映画初監督。映画は16年「後妻業の女」、18年「のみとり侍」など。07年紫綬褒章、13年旭日小綬章を受章。

◆白い巨塔 1963~65年、続編が67~68年まで「サンデー毎日」で連載された発行部数累計600万部の山崎豊子氏によるベストセラー。教授の座を野心的に狙う浪速大学の外科医財前五郎と、対照的な内科医里見脩二の2人の医師を中心に、教授選、誤診裁判を通して人間の欲望や打算を描く社会派小説。