宮崎駿監督(82)の10年ぶりの新作長編映画「君たちはどう生きるか」が、7月14日、全国で公開された。公開まで、あらすじなど一切の情報が明かされなかったが、この日、ベールを脱いだ物語は戦中、戦後の日本が舞台で、主人公の名は牧眞人。22年12月13日に都内で開かれた東宝の23年ラインアップ発表会見では、宮崎監督が少年時代に読んで感動した吉野源三郎の同名小説にインスパイアされ、題名を借りて新たにオリジナルの物語を生み出したと説明がなされたが、吉野源三郎の同名小説の主人公コペルこと本田潤一とは名前から異なった。
眞人は東京に住んでいたが、戦争が始まって3年目に街が戦火に包まれ、母は入院していた病院が焼かれ、亡くなってしまう。4年目に東京を離れ、疎開した先で出迎えにきたナツコという女性が、父との間の子を身ごもっており、新たな母になると伝えられる。複雑な心情を抱える眞人は、新しい家に通され、自室のベッドで寝ているうちに母の夢を見て、涙する。目覚めると、家の近所を歩き回り、見つけた古い塔に入り込んでいく。
宮崎監督は、鈴木敏夫プロデューサー(74)に16年7月に企画書を渡し、新作長編の準備に入った。17年5月に「『引退撤回』を決断し、長編アニメーション映画の制作を決めました。年齢的には、今度こそ、本当に最後の監督作品になるでしょう」と、スタッフを公募。同監督は同年10月に都内の早大で故半藤一利さんと対談した中で「題名を、そのまま勝手にもらって、しかも本が映画の中で主人公にとって意味のあるものになる」と、一部の情報のみ自ら“暴露”していた。その言葉通り、劇中には眞人が「君たちはどう生きるか」を手にして、熱心に読むシーンがある。
13年の前作「風立ちぬ」で、宮崎監督は零式艦上戦闘機(ゼロ戦)を設計した実在の人物、堀越二郎を主人公に物語を作り上げた。08年に漫画による発表を構想したが、同年のリーマン・ショックによる世界同時不況でファンタジーを簡単に作ることが出来ない時代と感じ、模索。翌09年に月刊模型誌で漫画の連載をスタートさせ、10年夏に鈴木プロデューサーから映画化の提案を受けたが、子供のためのアニメを戦争が題材の大人向きの内容にしていいかなどと悩んだ末、映画化を決意した。その後、絵コンテを書き上げたが、翌日の11年3月11日に東日本大震災が発生。製作続行か否か、悩んだが「力を尽くして限られた時間を一生懸命生きる」という思いを届けるため、関東大震災や戦争が起きた1920年代を舞台に、実在の人物を掛け合わせて描くなどのアイデアも駆使し完成させた。
実在の人物をモチーフに描いたこと、実社会でのさまざまな出来事からファンタジーを作ること自体への苦悩も続いた中で製作した「風立ちぬ」は、子供のためにアニメを作ってきた宮崎監督の作品の中でも、大人向けの色が強い作風となった。宮崎アニメ特有のファンタジー色も、過去の作品群と比較すると少なめだった。
それから10年。「君たちはどう生きるか」は、鳥を擬人化したような異形のキャラクターが描かれたポスタービジュアルから、ファンタジー色がにじんだ。どのような立ち位置なのか、主人公なのか? と議論が沸騰したが、当該キャラクターの延長線上にあるであろうキャラクターは、ちゃんと登場する。物語も戦中、戦後の日本を絵、設定に落とし込みつつも、宮崎アニメ王道のファンタジーあふれた作品となった。この日、東京・TOHOシネマズで午前8時から上映された初回の上映を見終わった観客の間からは「1度、見ただけでは分からない。何度か見たくなる」「まずは映画館の外に出て、感想を話し合ったり考察したい」などの声が相次いだ。
エンドロールで、主演は俳優山時聡真(18)であることが判明。また木村拓哉(50)菅田将暉(30)柴咲コウ(41)あいみょん(28)木村佳乃(47)竹下景子(69)國村隼(67)大竹しのぶ(65)小林薫(71)火野正平(74)滝沢カレン(31)阿川佐和子(69)らも出演。主題歌は米津玄師(32)の「地球儀」であることも判明した。



