都内で開催中の東京国際映画祭で2日、20年のコロナ禍以降、映画業界の問題、課題を共有し、映画祭での交流を通じた新たな連携によって、顔の見える議論につなげることを目的とした「シネマ・コネクティング・ジャパン官民連携フォーラム」が開催された。同フォーラムには、政府が24年9月に第1回会合を開催したコンテンツ産業官民協議会・映画戦略企画委員会から内閣府、文化庁、経産省の担当者が出席。加えて、同委員会に民間構成員として参加している、東宝の松岡宏泰社長(59)と是枝裕和監督(63)らも出席した。
席上で、内閣府知的財産戦略推進事務局の中原裕彦事務局長から、23年に5兆8000億円を記録したエンタメ・コンテンツ産業の海外売り上げを、33年までに20兆円にする目標が設定されたことが説明された。また、製作者に各省庁が支援施策を行っているものの、発信がバラバラで分かりにくいとの声が出ていることを受け「クリエイター等への支援施策・支援ツール等ポータルサイト」を構築し、10月31日に公開されたと説明がなされた。
そうした話を受けて、松岡氏は「日本の将来を担う産業の中にコンテンツ産業が選ばれ、その中に映画があり、戦略企画委員会があるのは映画産業だけ。そう見てもらっているのはすごくうれしいし、光栄で、期待を持たれていると思う」と一定の評価を口にした。一方で「官民で議論するのは活気的で、2年前にスタートし、変化しているけれど目標の道筋が見えているかと言うと少し不安で、じれったいところがある」と本音も吐露した。
さらに「総理が変わり、これから先、高市さんでどうなるか不安もある」と、高市早苗首相になって、変化するのでは? との懸念もあることを示唆。その上で「まずは成功事例、大ヒットを、たくさん出していく。どうやって勝つのか、勝つ作品をどう選んでいくか。正解はないが深い議論が必要」と指摘。「持続可能な現場、というのを無視せず、上を目指すことをやりながら底辺を底上げするのは、とても大切。高い目標に到達するためには、普通はできないことも何とかできるようにしたい」と訴えた。
是枝監督は「映画祭でコンテンツ、という言葉を使うこと自体、違和感を持っていて」と、まず口にした。その上で「必ずしも映画祭は、映画を芸術として語るだけでなく、コンテンツとして自国の映画をどう発展させるかの戦いが、裏で行われている現実があるが、日本の映画祭では、そこが手付かず」と続けた。そして「国策に、どうならないか。作られる映画自体が、どういうふうに自由が担保されるかが、僕たちにとって最も大事。そこの距離感が岸田さん、石破さんまで閣議決定の中で担保されている。距離感は堅持されているので、どう未来を作るか?」と語った。
経産省の訟務・サービス審議官で商務サービスグループの南亮グループ長からは、エンタメ・コンテンツ産業の5兆8000億円もの海外売り上げが、半導体と鉄鋼を上回り、21兆6000億円を記録した自動車に次ぐ2位の数字だと説明がなされた。一方で、映画・アニメ製作費の35%を税額控除する米国、映画勢で海外作品の収入を国内事業者へ回すフランスと、韓国映画振興委員会(KOFIC)などを通じて戦略的に輸出振興を行う韓国と比較し、日本は「クリエイター基金創設」を始めたばかりで、製作者への公的支援が、かなり少ないとの現状も報告された。
その課題について、是枝監督は、フランスの国立映画映像センター(CNC)やKOFICのような持続可能なシステムを日本国内に作ることを目指す、日本版CNC設立を求める会(action4cinema)の活動を続けてきた。フランスでは映画館やテレビ、配信サービスなどを見た観客が支払った料金の中から、約11%が税として徴収され、その資金が製作環境、人材育成のための教育、映画館への支援など支援が必要な場所に助成金として分配される。韓国でも、観客が支払った料金の中から約3%が業界支援に回されており、そうしたシステムを日本国内に作ることを目指してきた。日本版CNC設立を求める会は、松岡氏が幹事を務める最大の業界団体である日本映画製作者連盟(映連)とも21年から話し合いを続けてきた。
官民連携フォーラムの中でも、米国のような税制優遇や、フランス、韓国が取る自動補助制度が公的支援の理想の形の1つとして示された。是枝監督は「日本でも何とかできないかなと考えて活動を3年くらい、やっていて。映連とお話しして、なかなか実現に至らない事情も少しずつ、分かってきていて。国がどうじゃなく、業界全体が1つの価値観でまとまって、法整備が必要であれば提案していくという、大きな変革が必要になってくると分かってきている」と現状を説明した。
その上で、隣に座った松岡氏に向かって「松岡さん、率直な思いは、どうですか? 松岡さんがトップになって、なかなか動かないものを変えてきているという期待があって隣に座っている」と投げかけた。松岡氏は「恐らく、是枝さんの言っていること…そういうふうな組織があって、こうやっていくんだと決めて産業、業界を動かしていくことに異論を唱える人はいない」と断言した。
一方で「結局、財源なんですよ。興行収入の何%(を吸い上げて自動補助するの)は、フランス、韓国は税金で動いている」と、海外の自動補助のシステムは、税金として動いていると指摘。一方、日本には「そういう法律がない」とし「興行、配給、製作会社の収入、利益から出していく、完全に民の仕事になってしまう。それを、どういうふうにするかの議論は必要」と指摘。その上で「パスゲームではないけれど、政府の方に聞かせていただければ」と、是枝監督の話を政府側に投げた。
中原内閣府知的財産戦略推進事務局長は「負担をお願いする調整をするのは、財源のお話でも、かなりの苦労を要する」と即答。「そうすることによって、国民全体の付加価値が上がっていくんだという説明を、私たちがどうやっていけるか? そういうことをやらせていただき、将来のことを考えていきたい」と口にするに止めた。



