25年8月16、17日にNHK総合で放送されたNHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」のドラマパートに、40分の追加シーンを加えた映画「開戦前夜」(石井裕也監督)の公開日が7月31日に決まった。配給の東京テアトルが5月31日に発表した。

「開戦前夜」は、猪瀬直樹参院議員(79)が1983年(昭58)に出版したノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」が原案。真珠湾攻撃8カ月前の1941年(昭16)4月に、官僚、軍、民間から日本中のエリートたちが秘密裏に集められた、実在の「総力戦研究所」に着想を得て、石井裕也監督(42)が脚本・編集・演出を担当し、初めて戦争ドラマに挑戦した。

日本最高の頭脳を持つ若者たちに与えられた任務は、内閣総理大臣の直轄機関「総力戦研究所」で「模擬内閣」を結成して日米開戦の行く末をシミュレーションし、東條英機ら「本物の内閣」に報告すること。彼らは、米国に対する「圧倒的な敗北」「日本必敗」という衝撃のシミュレーション結果を命がけで導き出し、開戦へと突き進む軍や本物の内閣と対峙(たいじ)も、見解は採用されなかった。日本は勝ち目のない戦いへと突き進み、彼らの予測は原爆投下以外、ほぼ全て的中。知略が積み上げた予測が、時代が放つえたいの知れない「空気」によって、跡形もなくのみ込まれていった。その空気にも踏み込んで描く。

脚本も手がけた石井監督は「日米開戦直前、日本社会に不気味に漂っていた『空気』は、確実に引き継がれて現代にも存在します。日本を代表するキャスト、スタッフと共に今この作品が作れたことの大きな意義を感じています」とコメントした。池松壮亮(35)が、東大法学部を首席で卒業した産業組合中央金庫(現・農林中金)の調査課長で、模擬内閣の内閣総理大臣を務める宇治田洋一を演じる。

また、佐藤浩市(65)が陸軍大臣から総理大臣になる東條英機を演じる。劇中で「机の上で日米開戦か。これは面白いな」というセリフも出てくるなど開戦強硬派だった東條だが、総理大臣就任後は天皇の意向から和平交渉を模索する中で、開戦を求めて激化する世論や軍部と、天皇への忠誠とのはざまで苦悩する。近年の研究で明らかになってきた、既存の独裁主義的なものとは違う人物像を落とし込んだ東條を、佐藤が繊細な芝居で演じ上げた部分が、より色濃くなったのも、完全版となった映画の魅力だ。

作品を巡っては、総力戦研究所の初代所長・飯村穣中将の孫で、元駐フランス大使の飯村豊さん(79)が、祖父の人物像が誤った描写で不当にゆがめられ、名誉を毀損(きそん)されたと主張。放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議入りなどを求める要望書を提出も、BPOは25年10月18日に「視聴者において誤解が生番組内でテロップでフィクションであることを明示するなどしており、視聴者に誤解が生じることはない」と討議入りしないとした議事概要を公表。その後、飯村さんは同12月24日にNHKや番組制作会社などに550万円の賠償を求めて東京地裁に提訴。7月22日には第3回口頭弁論が予定されている。

映画の製作委員会は、公開日決定にあたって、以下の文書を発表した。

「本作のドラマ版は現在係争中でありますが、本作によって特定の個人を糾弾したり、名誉を毀損(きそん)したりする意図はなく、私たちの主張は裁判においても法的に認められると確信しております。本作は歴史的事実を基にしたフィクションであり、機密性が極めて高かった総力戦研究所を描き、現代にもつながる問題を提示するための作品です。今の時代にこそ観ていただきたい物語として、自信を持って映画『開戦前夜』を公開いたします。 映画『開戦前夜』製作委員会 ※公開にあたってのメッセージ詳細は、映画公式ホームページにも記載しております。」

また、原案の猪瀬氏もコメントを発表した。

「僕が『昭和16年夏の敗戦』を取材・執筆していたのは30代前半でした。総力戦研究所の研究生たちも30歳から35歳。だからこそ、自分がその場にいたらどうだったか、どう行動したかと自問しながら書くことができた。当時、第一期生は70代後半くらいになっていました。直に会って、日本が『空気』に負けた、生々しい瞬間を聞き取りました。彼らがどういう気持ちでいたのか、なるべく再現したつもりです。僕が描こうとしたのは単に『総力戦研究所がありました』ではなく『昭和16年夏の敗戦』という物語なのです。そして発表当時から40年以上を経て、石井裕也監督、池松壮亮さんら俳優陣が強い思いを持って映像化を実現してくれました。活字と映像表現は違いますから、脚色が加わることは十分ありえることです。原案作品のテーマをしっかり読み込んでいることが伝わる脚本だったので、僕としては満足です。日本の若き才能に感謝しつつ、『空気』ではなくファクトとロジックによる意思決定の重要性をこれからも訴えていきたい。戦後80年を超え、迷走する日本の未来のために。この映画の公開に期待しています」