自民党総裁選は10日、北海道の地震への対応で自粛してきた選挙戦を再開し、安倍晋三首相(63)と石破茂元幹事長(61)が所見発表や会見に臨んだ。石破氏が首相の持論、憲法9条改正に対し「なぜ考えが変わったのか」と説明を求め、首相も石破氏の「防災省」構想に否定的な認識を表明。対立軸が明確になった。しかし首相は会見後、国際会議出席でロシアへ向かい、論戦は再び停止。早々と首相優勢が伝えられる中、このまま消化試合で終わってしまうのか。

地震対応優先で自粛ムードだった総裁選。ようやく首相と石破氏が「第一声」をあげた。首相は所見発表で「批判を受け止め、改めるべきは改め、謙虚に丁寧に政権運営を行いたい」。石破氏はアベノミクスに評価と疑問を唱え、「政治家の仕事は、勇気と真心をもって真実を語ること」。自身の「正直、公正」のスローガンを批判した首相陣営を当てこするようだった。

共同会見では主張の違いが鮮明になった。首相は持論の憲法改正に関し「憲法にしっかり自衛隊を書き込む」と、9条改正に意欲を表明。「簡単ではないが、国民投票に付すことで急速に議論が深まり、理解が進むこともある」と訴えた。

しかし、石破氏は「憲法改正は、必要で、急ぐものから始めるべきだ」と否定的。「国民の理解がないまま、国民投票にかけてはいけない」と指摘し、党内への説明もないとして、「一方的に話して『分かりましたか』ではだめだ。誠実な努力なしに9条を改正すべきではない」と反論した。

一方、石破氏が自然災害に対応する防災省の設置を主張すると、首相は「一考に値するが、災害ではすべての大臣が防災相と自覚すべきだ。(最終的に)指示するのは、権限を持った総理だ」と、疑問を呈した。

「とにかく突破していく。織田信長みたいな感じ」。自らは「日本を担う有為な人材」と評した石破氏の「首相評」に、首相は表情を硬くした。2人は報道陣の求めで握手したが、言葉はほとんど交わさなかった。

首相は会見後、羽田空港に直行し、ロシアへ。帰国の13日まで論戦は再び止まる。「期間が短いと嘆いても仕方ない。街頭に出る。討論会をする」と訴えた石破氏は、茨城県水戸市で街頭演説。戦い方も対照的だ。

石破氏が求めた討論会は、14日と16日に計3回。全国演説も4カ所にとどまる。6年ぶりの総裁選にもかかわらず、実質的な選挙戦は1週間弱。20日の投開票までに、盛り上がる瞬間は訪れるのか。【中山知子】