「細かすぎる解説」でおなじみのスポーツジャーナリスト増田明美さん(56)が、21年8月7、8日、札幌で開催される東京オリンピック(五輪)のマラソンコースについて解説した。(1)札幌での開催(2)勝負どころとなるポイント(3)日本代表選手(4)予想優勝タイムについて、独自の視点とエピソードを交えて語ってくれた【取材・構成=保坂果那】

(1)札幌開催

札幌に決まったばかりの時は、もったいないなと思っていた。MGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ)で選ばれた選手にとっては地の利があったのにって。でもやっぱり気温、湿度が全然違う。結果的に良かったと思う。特に選手はみんな合宿を士別や深川、網走など北海道で行っている。そういう縁がある地なので「東京でやるより緊張しない」って言っている選手もいた。そんな良さがプラスに働いたら。

テレビ塔や大倉山シャンツェ(ジャンプ競技場)が見守ってくれてザ・北海道、ザ・札幌からスタート。大通公園の8月の花壇はとてもきれい。マリーゴールド、サルビア、パンジーかしら。選手のみなさん、とても緊張しているから彩り豊かな花に癒やされる。道庁の赤れんが庁舎は北海道のシンボル。赤れんがは豊かさの象徴ですよね。開拓を感じる。選手も自分に負けずいろんな困難を越えて開拓してきたから良いですね。

ビルは多いけど、高さが優しいから圧倒されない。空が広く見える。沿道の観客との距離が近いから声援が力になるでしょうね。私、北海道マラソンを走った時、応援してもらって膝が1センチ高く浮いた。「馬力出して頑張れ」って言われて、やっぱり北海道は馬なのねって思った。

(2)勝負どころ

2カ所がポイントとなると考えている。1つ目は創成川通。ここはずっと4キロくらい真っすぐでしょ。天気が良かったら日光を浴びながら行く。ちょっと我慢が必要。15、25、35キロ地点と3回通るけど、退屈しちゃいそうなしんどいところで、それを狙ってスパートしたいって作戦を立てる人がいると思う。

女子の前田穂南さんは得意なんじゃないかな。ここで仕掛けようって考えてるかもしれない。2周目あたりで。アフリカの選手はラストスパートに自信があるから最後の方しか上げないのね。だからアフリカ勢の足を疲れさせておくためには、日本人選手がある程度ハイペースで進んで主導権を握る必要がある。

2つ目は北大の中。角が多い。ああいうところはスパートする人は逃げやすい。置いて行かれた人は追い付きにくそう。あそこを勝負どころに考えている人もいるんじゃないかな。

最近の五輪は周回コースが多いけど、日本人選手は好きな人が多い。1周目はライバルたちの様子を見て、2周目でどこでスパートしようか考えて、3周目で仕掛ける。ホップステップジャンプね。作戦を立てやすい。

(3)日本代表選手

男子の服部勇馬さんは箱根を走っている時も坂が好きだった。けど、このコースは上り坂が少ない。豊平川に行く前、橋を渡った後の7~8キロくらいのところ。しかも1周だけ。でも服部さんは北海道の夏の日差しが好きと言っていたから、相性は良いと思ってるんじゃないかな。中村匠吾さんも暑さが好き。大迫傑さんは冬に強いけど、ああいう人はまさに開拓精神ね。米国に行って強くなって王者になってる。なんでも強いはず。

女子の前田穂南さんは辛抱強さがある。400メートルのグラウンドで2キロのインターバルを21本行っちゃう。泥くさい練習をしている。北海道マラソンで優勝したこともあるしね。鈴木亜由子さんも優勝経験者。地の利はある。彼女は名大出身で賢い。北大の中で作戦を立てるかも。「能に学ぶ『和』の呼吸法」って本を読んでるんですって。右足のケガもコロナ禍で治す時間に充てられた。一山麻緒さんは強くなった。トラックのスピードがあるから、豊平川の橋のアップダウンもリズム良く上がっていくんじゃないかな。

選手の晴れ舞台を見てほしい。新型コロナウイルスの影響で大会もなくなって、選手には枯渇感がある。その思いをぶつけたいって選手ばかりだから。

(4)予想優勝タイム

目安になるのは12年ロンドン、16年リオデジャネイロ五輪かな。リオの時の女子の気温は26度でタイムは2時間24分台。ロンドンの時の2時間23分7秒は五輪記録だけど、これを上回るかもしれない。当日の気温や湿度、風がすごい関係してくるけど。26、27度だったら更新するかもしれない顔触れ。だから女子は23~24分台を予想している。

男子はリオが2時間8分44秒でしょ。気温は22度だった。でも最近のマラソンはわからない。08年北京五輪では26度あったけど、優勝したサムエル・ワンジルさん(ケニア)が2時間6分32秒で走った。こういう選手もいるから。

札幌はコース的には記録が出るコース。でも五輪って記録じゃないから。みんなメダル狙いだから。

◆増田明美(ますだ・あけみ)1964年(昭39)1月1日、千葉県生まれ。成田高時代に長距離種目で次々に日本記録を更新。84年ロサンゼルス五輪マラソン代表。92年に引退するまでの13年間で日本記録を12度、世界記録を2度更新した。現在はスポーツジャーナリストとして解説などで活躍。座右の銘は論語の「知好楽」。