日本ではJリーグが終盤に入り、J1では川崎フロンターレが優勝し、J3では記録的な強さでブラウブリッツ秋田が優勝しました。J2も徳島ヴォルティスが7年ぶりのJ1が見えています。ヨーロッパでは依然、多くが無観客でリーグ戦が行われており、チケット販売は全く見えていない状況が続いております。そのような中、私が大変お世話になったレアル・マドリードで2019-20シーズンの財政報告がなされたようですので、今回はこのリポートを読み解いていきたいと思います。

トピックスは以下の3点です

◆新型コロナウイルスの影響により、2019-20シーズンにおける収入は前シーズン比13%のマイナス。→1億600万ユーロ(約132億5000万円)マイナス

◆2020年6月30日の時点で、5億3300万ユーロ(約666億2500万円)の純資産と1億2500万ユーロ(約156億2500万円)の流動資産の堅実な財務状況を維持。

◆2019-20シーズンの収入は前シーズン(2018/19)と比べて6億1700万ユーロ(771億2500万円)を予測。前シーズン比約3億ユーロ(約375億円)のマイナスと算出。

今回は現在進行中のプロジェクトであるスタジアム改築に関する部分の財政に関しては除いた形でリポートされています。この注釈が最初になされていることから、スタジアム改築プロジェクトを他事象と切り離すことで、“会計報告を不透明にしない”というメッセージが見えます。これらは意図的になされており、1990年代に問題となった不正会計(多くの隠蔽(いんぺい)工作)が行われてきた歴史から来るものと感じます。

スペインリーグの2019-20シーズンは、2020年3月上旬からリーグが中止になり、その時点で38節のうち27節までが行われていました。ここから約3カ月の中断期間を経て6月から再開されましたが、試合数でいくと27試合が通常に行われ、中断期間明けに行われた11試合が無観客ということですから、数字上は約29%が無観客であったという事になります。その3割近い試合の消失が、売り上げにして約13%の損失だったということになるのですが、スポンサー収入や放映権の収入はおそらく年間通してのものでしょうから、一定期間における単純なチケットとグッズ関連の売り上げ、F&B(飲食関連)の売り上げ損失だけで乗り切ったというのが実情だと考えられます。

今シーズンに関しては、日本ではあまり報じられておりませんが現地の報道では銀行借入を行った報道がされています。資産を確保・保持することができているというリポートの背景には、これらの要因を踏まえてファイナンシャル的な視点から、良い資産形成・バランスを保つことができているとされているのではないでしょうか。この辺りは日本でも政府によって多くの企業に対して行われています。緊急の現金支給によって企業の資金確保をサポートするということで、パンデミックによる収入減に対応するといったところでしょうか。

さらに、レアル・マドリードは、今シーズン経費削減策を実施しています。特に人件費の部分でフットボールとバスケットボールのトップチームの選手・コーチ陣のシーズン給与を10%減額することで話がまとまっており、こういった予算削減も今シーズンの収入・支出報告に影響がされていると考えられます。

最終的な予算予測としては、前述のように前シーズン比率で約3億ユーロ/約375億円のマイナスとリポートされています。ここは以前も触れましたが、おそらくチケット収入で約200億円のマイナスになりますから、その他約175億円の損失が予測されるということで、グッズの売れ行き減が大半であると考えられます。試合が行われないことや、新ユニホーム発表など新商品の例年の売り上げが見込めないことがメインで、さらに付け足すとすればスタジアムツアーなどの中止も考えられます。

このリポートからも分かるように、緊急事態における銀行借入によってなんとか財政確保がされている、という状況であることがわかります。長期にわたる無観客での試合運営は、ますますスポーツ界を苦しませることになり、ビッグクラブでこのような状況であることを考えると、金融機関による借入にも限界が生じる大きくないクラブはますます限界地点が近づいていることと考えられます。少しでも早期における観客動員の回復を期待せずにはいられません。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」